音楽ファンなら、お気に入りのレコード、CDのジャケットはいくつもあるはず。そのジャケットを眺めているだけで、音楽と共に色んな思い出が甦ってくるものだ。そんな、音楽には欠かせないジャケットの制作過程とその作り手に焦点を当てたドキュメンタリー映画『エポックのアトリエ 菅谷晋一がつくるレコードジャケット』が2021年1月8日より新宿シネマカリテほかにて劇場公開される。映画の主人公となるのは、ザ・クロマニヨンズ、OKAMOTO’Sなどのレコードジャケットを手がけるデザイナー・菅谷晋一さん。一風変わったモノづくりの様子を捉えた映像は、まるで図工室の中で遊びに没頭しているかのよう。今回、制作拠点“エポックのアトリエ”に伺って、デザイナーを志したきっかけから、仕事への思いなど、お話を訊かせてもらった。
デザイナーの職に就いたきっかけ
――菅谷さんがデザイナーとしてお仕事を始めるようになったのは、最初にどんなきっかけがあったんですか。
菅谷:僕が中学生の頃に、ちょうどレコードからCDに変わる時期が来たんです。その当時、CDはすごくクリアな音がするんだって言われていて、ワクワクしてCDを買って。一方でレコードジャケットも持っていて。その頃好きだったのが、部屋の畳の上にジャケットを並べて眺めることで。それを見て「かっこいいなあ」って思ってたんですよ。たぶん、音楽が好きな人って、そこからバンドをやる人だったり、レーベルで仕事をする人とかいっぱいいると思うんですけど、僕は畳の上にレコードジャケットを並べて見てるときから、たぶんジャケットの存在に魅力を感じてたんですよね。その後、大学は建築関係のところに行っていて、就職はサラッと流しちゃったんですよ(笑)。僕は建築家になりたかったんですけど、僕が思うような就職先がなかったというのと、当時父親が金型製造の工場をやっていて、その仕事も面白いなと思って、そこに入ったんです。でも3年ぐらいやってる間に、自分の中で図面をもらってその部品・機械を作るんじゃなくて、図面を引く方に行きたいなと思ったんです。それはどうしてかというと、機械を作ったって、買ってくれる人はその機械を発注した人だけじゃないですか? だけど、部品とか製品を自分で図面を引いてデザインすることによって、いっぱいの人に広がるわけですよね。僕はそっちの方に行きたいんだなと思ったのが最初です。
――デザイナーさんというと、専門学校に行ってデザイン事務所に入って、そこから独立したりというイメージですが、そういう道には進まなかったんですよね。
菅谷:そうですね、そのときは建築家になりたかったので。実家の仕事を辞めたときも、自分が作った作品のポートフォリオを持って何件かデザイン事務所に行ったんですけど、受からなかったんです。そのときにアートディレクターの信藤(三雄)さんに、「自分でやればいいじゃん」って言われちゃって。今思えば、断り文句で言ったのかなと思うんですけど(笑)、当時僕は「あ、1人でやってみようかな」って、プラスに考えたんですよね。
――自信があって前向きな姿勢じゃないと、なかなかそう思うことってできないですよね。ちなみに、そのときに見せていたポートフォリオはどんなものだったんですか。
菅谷:当時、iMacが出てきた頃で、アメリカのニューヨークとロスで撮りためた写真をPhotoshopやillustratorを使ってデザインして、架空のジャケットを作っていました。
――外国の方には、ご自分で声をかけて撮らせてもらったんですか?
菅谷:そうです。「日本の有名なカメラマンだから撮らせてくれ」って嘘をついて(笑)。ちょっと怖かったですけどね。
――すごいですね(笑)。ご自分でやりたいと思ったことに対してはどんどん積極的に行動できるんですね。
菅谷:そうですね、そういう気持ちだけはずっと持っているかもしれないです。それでも最初のうちはどうやってデザイナーの仕事をすれば良いのかわからなかったので、「bonjour records」という代官山にあるお店のバイヤーの募集があったので面接に行ったら、最後の社長面接でポートフォリオを見た社長が、「ここに入ってもレコードを仕入れるだけだから。君はたぶんデザインをやりたいんだと思うよ」って言われて落ちちゃったんですよ。でもその2週間後に、「bonjour records でCDを作るからジャケットを作ってくれない? 」って仕事をいただいて。それがご縁で始めたんです(コンピレーションCD『child food』のジャケットデザインを担当)。
――お話を伺うと、お会いになる方々が、みなさん菅谷さんの将来のことを考えて助言されているような印象を受けます。
菅谷:どうなんでしょう(笑)? 映画の中のインタビューでは、「そんなつもりはなかった」って言ってますけど、その後ちゃんとフォローしてくれてくださっているので、それはすごくありがたいなって思います。