――第18話「遊星から来た兄弟」では「にせウルトラマン(正体はザラブ星人)」と本物のウルトラマンとの対決が見られました。ウルトラマンがにせウルトラマンの顔面にチョップした直後、よほど固いところに当たったのか、あまりの痛さに手を振って悶絶するシーンがすごく印象に残りますね。

あれは演技でも何でもなくて、本当に痛かったから(笑)。にせウルトラマンのマスクに勢いよく手が当たったとき、小指の骨が折れたんじゃないかと思ったんです。

ウルトラマンは宇宙人だから人間的な動きをしすぎてはいけないんだけど、あのときは「痛い!」という気持ちが出ちゃっていますよね。実際、撮影でも大声で悲鳴を上げました。でも、俳優というのは監督がカットをかけない限りは、ずっと芝居をしていないといけません。カットの声がかかるまで、僕は小指の痛みを我慢してずっとにせウルトラマンと戦っていたんです。ウルトラマンが痛がっているところは、編集のとき切ってくれたらいいんじゃないかって思っていたら、あのリアクションがそのまま放送されていた。あのときの動きを使っちゃうのか~なんて驚きました(笑)。

――怪獣の攻撃を受けて「うう~ん、いまのは効いた」みたいに首を振るなど、ウルトラマンがときおり見せる、ほんのわずかな"人間味"ある動きも魅力のひとつだと思います。

シーボーズをロケットにくくりつけて宇宙の怪獣墓場へ帰そうとする話(第35話「怪獣墓場」)では、駄々をこねて言うことをきかないシーボーズに閉口したウルトラマンが一瞬、アメリカのコメディ映画のように肩をすくめて途方に暮れるしぐさをしていましたね。高野さんやシーボーズ役の鈴木邦夫さんたちと相談して決めた演出なんですけど、ウルトラマンも怪獣と戦ってるだけじゃなくて、ちゃんと"芝居"をしていたんです(笑)。

――全39話にわたってウルトラマンを演じてきただけに、古谷さんにはいろいろな撮影時の思い出があると思いますが、特に印象に残っている出来事があれば教えてください。

怪獣を倒したウルトラマンが、空に飛びあがるシーンがあるでしょう。あれを毎回の撮影終わりに必ずやっていたのをよく覚えています。戦いを終えたウルトラマンが空に飛び去っていくシーンをどう撮るか、最初はいろいろな方法を試したんですが、最終的に「ウルトラマンを大きな台に乗せて、みんなでそれを持ち上げる」という、とても原始的な手法で行くことになりました(笑)。上がっていく足元の台が映る前にフィルムを切って、飛行用のミニチュアモデルに切り替えれば、ウルトラマンが悠々と空へ飛びあがっているシーンが出来上がるんです。最初は4人で持ち上げていたけれど、すぐ6人になりました。この6人の呼吸が合っていなければ、バランスを崩して僕が台から落ちてしまうんです。1人でも慣れていない人が入ったりすると、よく落とされました。何回も落ちて、そのたびに痛い思いをずいぶんしたもんです。

ウルトラマンが飛びあがるところだけ、同じフィルムを使いまわしてもいいんじゃないですか?って高野さんに言ったことがありましたが、「毎回の撮影が終わった後に、みんなで心をひとつに合わせてこれ(飛行シーン)をやるのが特撮スタッフのチームワークってもんだよ」なんて言われて、結局毎回やることになったんです。

――ハードな撮影の日々だったと思いますが、一度も休まれることなく古谷さんが全話ウルトラマンを演じられたのは本当にすごいですね。

一度、僕がもしもケガや病気をしたら、ウルトラマンはどうなるんですか?と周りの人に尋ねたことがありました。万一のことがあれば、誰か代わりの人を探してくるのかな、なんて思っていたら、どうもそんなことはまったく考えていない様子だった。「ウルトラマンに入れるのは古谷ちゃんしかいない。大丈夫だよ!」なんてことを言われて、ずいぶんいいかげんだなあと思いましたけれど、自分以外の人が入ってウルトラマンのイメージが変わってしまったらそれもイヤだと思い、大きなケガや病気をしないよう普段から心がけていました。

――撮影開始から約半年、放送から4ヶ月後というタイミングである11月には、それまで"秘密"とされていた「ウルトラマンの中身」がついにベールを脱ぐ、といった触れ込みで、古谷さんのマスコミ露出が積極的に行われました。このときのことを聞かせてください。

TBSの朝の番組『ヤング720』に出演し、この人がウルトラマンを演じている古谷敏さんです、と紹介していただきました。当時は23歳で、自分で言うのも何ですが"二枚目"路線を打ち出していました。今なら"イケメン"でしょうかね(笑)。マスコミ各誌にもたくさん取り上げていただいて、話題になったんですよ。こんな人がウルトラマンのスーツを着て怪獣と戦っているのか……っていうギャップが興味をひいたんだと思います。

ウルトラマンの中身として取材を受けたことがきっかけとなって、ファンレターがたくさん届くようになりました。あのころ、いただいた手紙には必ず返事を書きました。長い文章は書けませんでしたが「いつも応援ありがとう」みたいなひと言を添えてね。字の読み書きがまだできないような幼いお子さんの気持ちをお母さんが代筆したお手紙も、たくさんいただきました。毎日のように「ウルトラマン=古谷敏」あてに手紙が届いたことが、ウルトラマンを演じているときの"励み"となりました。いまでもファンレターをくださった方たちには、大変感謝しています。

――『ウルトラマン』最終回(第39話)では、ゼットンに敗れたウルトラマンを迎えに来た"光の国"の使い=宇宙警備隊員ゾフィーが登場しましたが、このゾフィーも古谷さんが演じられていたそうですね。

ウルトラマンを39回分すべて演じきったと思ったら、高野さんから「じゃあゾフィーに着替えて」って言われたのを覚えています。ウルトラマンのスーツ(Aタイプ)を流用しているから、入るのは僕しかいないってことで。本当はウルトラマン以外のキャラクターを演じるのは気が進まなかったんだけど、結局やることになったんです。

マスクは新しく作っているのですが、覗き穴を空けてないので前がぜんぜん見えない。なので助監督の声に合わせるかたちで演技をしています。ウルトラマンとは違うわけだから、演じ方も変えたいと思って、少しカタい動きを意識しましたね。ゾフィーは『ウルトラマン』の最終回の、最後のほうに出てきただけのキャラクターだと思っていたんですが、後のウルトラマンシリーズにも登場するようになり、人気が高いんだと後から聞いて驚きました。