――ありがとうございました。そういえば、おふたりはとても付き合いが長いそうですね。

筆谷:そうなんですよ。木谷さんがまだ山一證券に勤めていたころ、木谷さんが遊んでいた新宿の雀荘によく呼び出されていたんです。当時の僕は大学生だったから、日中は暇だったんですよ。

木谷:そんな関係になったそもそもの出会いは、宮川(総一郎。漫画家で「水谷潤」名義でも活動)さんとのつながりですね。だから最初に会ったのは江古田のはず。

筆谷:そうですね。江古田の宮川さんの馴染みの雀荘で、大晦日に麻雀をやったりしていました。僕がまだ大学生だったから、1986年頃。

木谷:となると、僕は社会人4年目くらいですね。

筆谷:当時、木谷さんは宮川さんの『マネーウォーズ』という漫画に関わっていたんですよね。

木谷:少しですが。連載の途中からですけどね。もともと僕は「漫画ゴラク」を買っていて、そこに載っていた宮川さんの漫画(『兜町ウォーズ』)を「これはおもしろい」と言っていたんですよ。そうしたら大学のサークルの先輩が「この作者は、うちの大学の出身だよ」というので、紹介してもらったんです。

筆谷:で、そんな縁があって、麻雀を打ちながらいろいろ話をする中で、コミックマーケットの話題も出ていた。それがのちに、木谷さんが「コミックキャッスル」という同人誌即売会を運営する会社を立ち上げることに繋がっていくんです。

木谷:そうそう。

筆谷:今でも覚えているのが、木谷さんから「何で同人誌即売会って、宣伝活動をしないの? 人を呼ばなくちゃいけないのに」といわれたことなんです。同人誌即売会はパロディ・二次創作もあるしエロもあるから、当時の我々は宣伝するなんて考えもしなかった。運営だけではなく参加者も、即売会の宣伝をするなどと言ったら、「なぜ一般の人を呼ぶようなことをやるんですか?」という時代だったんです。でも木谷さんのコミックキャッスルは考え方が違って、もっといろんな人にアピールしていこう、宣伝していこうという方針だった。

木谷:山一證券から独立する前後にいろいろお話を聞きに行って、結局、同人サークルのみなさんって、綺麗な言葉でいえば「いろんな人に自分の描いたものを見てほしい」、若干汚い言葉でいえば「本がたくさん売れてほしい」と考えているように感じたんですよ。だったら、一般の参加者が多い方が、参加サークルさんも喜んでくれるんじゃないかな、と。そうであるなら、宣伝に力を入れるべきだと考えたわけです。サークル数に対して参加者の数が多い方が、みんながハッピーになれる。それで実際、本がよく売れるイベントだというので、評判が上がったんです。最初の内は。

筆谷:漫画・アニメ畑の運営ではない人の発想なんですよね。今の若い人にはあまりわからない感覚だと思いますが、漫画・アニメ畑の人たちには、「一般人の目に触れないようにコソコソやろう」という感覚があったんです。今ではもう、コミケもこれだけ大きくなったから、「コソコソ」だの「目立ちたくない」だのは無理なんですが。30年前くらいのことですから、東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件の影響もまだ大きかったですしね。 アニメファン、漫画ファン、コミケファンというのは、ちょっと社会からの見られ方がひどいこともあって、目立ちたくなかった。

木谷:専門店ですら目立たないようにしてましたもんね。実際に即売会を運営するようになってみると、そう考える人たちの気持ちがわかる部分もありました(苦笑)。

ともあれ、そこで作家といっぱい知り合えて、繋がりが持てたのは良かったですね。あとは「キャラクター」というものにすごく強くなった。それが今の仕事にも生きていると思います。起業してすぐ、同人誌即売会をコミケの真似してちょっとやらせていただいたことが、ブシロードの原点になっている。カードゲームにしても、イラストの要素がすごく大きいので、そこに繋がっているんですね。

筆谷:木谷さんの人生の「1クール目」の時期のことですよね。とあるインタビューでされていたこの言い回しは、とてもおもしろかったです。1994年に起業されてからの人生が13年周期になっていて、2007年にブシロードを立ち上げたのは「2クール目」の始まりだと。そして、ちょうど今年の4月が2クール目の終わりだった。

木谷:偶然なんですけどね(笑)。そして、2クール目の最終回が、こうなるのか……とは感じています。

▽筆谷芳行(ふでたに・よしゆき)
1964年東京都生まれ。コミックマーケット共同代表。創業75年の漫画出版社・株式会社少年画報社取締役兼ヤングキングアワーズ編集長も務める。
「エアコミケ」
5月2~5日に開催予定。 コミックマーケット98の開催を予定していた期日に合わせ、各種企画が行われる。
▽木谷高明(きだに・たかあき)
1960年石川県生まれ。山一證券株式会社を経て、1994年に株式会社ブロッコリーを設立。2007年株式会社ブシロードを設立、2019年東証マザーズ上場。
「BanG Dream!(バンドリ!)」

5月2日(土)~5日(火・祝)にかけて、「バンドリ!GW特別企画」を実施。 4日間連続で生放送番組をYouTube Liveにて配信予定。