――そうなると具体的には、冬のコミケもどうなるのか、という思いがありますし、ブシロードもさまざまなIP展開があります。どれも年単位でロードマップが描かれているかと思いますが、木谷さんの現時点での見通しはどうなっておられますか?
木谷:今は、はじめからシナリオを二つ、三つと思い描いて、適宜そのシナリオを直していくということが必要だと考えています。これはエンタメ業界に限らないと思いますけどね。
あと、今現場に対して言っているのは、「とにかく情報発信を、どんな形でもいいからしてくれ」ということです。今、明るいところに人が集まるから、とにかく元気に振舞ってほしい、と。僕らが情報発信を全くしないで、お通夜のような状態が続いてしまったら、お客さんも元気がなくなるじゃないですか。そんなときにも、ちょっとでもプラスの部分を自分たちで作って行かなきゃいけない。それを作ることができるコンテンツに、みんな集まるでしょう。
スポーツも含めたエンタメ業界が、今回すごくおとなしい。不満も言わないし、補償も積極的に求めていない。それは……本来的な意味で生活必需品ではないからなんでしょう。
――はい。
木谷:必需品ではないから、そこまで強く言わないようにしようと、ある意味、その面でも「自粛」しているんだと思うんです。だから、行けるとなったときには、ちゃんと行かせてほしい。検査を徹底するなどして、早く「日常」を取り戻す努力をすべきだと、僕は考えています。
■「リアルな場を開こう」という思いは諦めない
――コミケとしてはいかがでしょうか。
筆谷:我々も、リアルなイベントの場を用意して、参加してくださるサークルさんたちに本を出してもらって……というのは、これからも変わらないんですよ。ただ、そうは言っても今回中止になってしまったので、印刷会社さんが大変になっている。また、サークルさんたちの気持ちも下がっている。そのための何か目標を作らなければならない。
それで考えたのが、ネット上での「エアコミケ」(5月2~5日開催)です。さすがにいつものコミケのような受注は望めず、かなり厳しいというのは聞いていますけれど、それでもゼロにはなっていないんです。
――サークル参加者のみなさんもさすがですね。
筆谷:ただ、普段コミケに参加しているおよそ3万のサークルの中には、人がたくさん集まるジャンルもあれば、地道にやっているジャンルもあるんですよね。で、地道にやっているジャンルには、リアルな場じゃないと人がなかなか集まらないんです。
たとえば評論や鉄道、それから雑貨・アクセサリー関係。コスプレイヤーさんたちにしても、笑わせたいネタを仕込んでいる系のコスプレイヤーはコミケにしかいないんですよ。コミケに向けて、おもしろいネタを考えていた人たちはいたはずで、それが全部飛んでしまった。
年に2回しか自分を表現できる場所がなかったような人たちの気持ちが、今、止まってしまっている。だからリアルな場を開こうという意志は、これからも諦めません。でもその日が来るまでは、まずは「エアコミケ」という試みをやってみよう、と。それがうまくいったとしても、継続するかどうかは未知数ですが。
――なるほど。
筆谷:コミケに限らず、コミティアさん、コミックシティさん、例大祭さんを始め、大規模な同人誌即売会が全部中止になっています。日本にある何万というサークルが、みんな発散する場所を求めている。
Twitterだけで承認欲求が満足しきれるわけがないし、それでなくても、「今」という時間を切り取って、この半年間の燃える気持ちを本にぶつけているのが同人サークルです。2020年の春の自分は、「今」のこの瞬間にしかいないのに、それを発表できる場がなくなって、何十年後に自分史を振り返ったとき、そこだけぽっかりと穴が開いてしまう。その前後は「こんなジャンルの本を出していた」とわかるのに。それをどうにかしたいですね。