■コミケの今後は
木谷:コミケは次は冬開催の予定で進めているんですか?
筆谷:一応その予定ですね。
木谷:その次はどうなるんですか?
筆谷:オリンピックが延びてしまったので……もともと今年冬開催予定のコミックマーケット99は、予定通りならオリンピックが終わっていて、東京ビッグサイトの東展示棟が解放されて戻ってくるので、全ホールを借り切った史上最大規模のコミケになるはずだったんですよ。で、2021年の夏は100回記念で、できれば落選サークルをなるべく出さない形でのコミックマーケットを開催するはずだったのが……現状、どうなるか、わからないです。
冬は開催できたとしても、東展示棟がオリンピックの延期で使えなくなったので、規模は予定よりうんと小さくなるでしょう。さらにその先は、もっとわからない。東京オリンピックのあと、帰ってくる前提で組まれていた東展示棟のイベントの予定が、どうなるのか。100%キャンセルすることもできないだろうし。その調整がどうなるのか。考えなくてはいけなくても、ビッグサイトの関係者のみなさんだって、今まだそこに手が回せる状態ではない。そんな状況です。
木谷:わからないことが多すぎますよね。
筆谷:正直、オリンピックの延期も、コロナの問題の方が優先順位が高い状況で、これからどうなるのか……。コミケはさきほどお話した準備期間もですが、告知期間の問題もあるんです。
まずそもそも、今、冬のコミックマーケットのためのサークルの申込用紙をどうやってサークルさんに入手してもらうかが課題になっているんです。いつもはコミケ会場で次の申込書を買ってもらうんですけど。別のイベントで売ろうとしても、それすらもない。書店さんを頼るにしても、書店さんもいつまで休むかわからない。さすがに夏ぐらいには開くでしょうけれど……。
コミケは完全なデジタル移行はできないんですよね。参加者の世代が広いので、まだアナログの申込みも何千サークルとあるんです。全参加サークルの一割程度がアナログ申し込みの計算です。そういう人たちの生きがいを奪えない。その人たちはおそらく、趣味として生涯漫画を描く人たちですから。
■「場」を守ること、「次」を作ること
――コミックマーケットや、もっと広い意味での同人文化を愛する人たちが、それを支えるためにできることは何があるのでしょう?
筆谷:今はやはり、「エアコミケ」を盛り上げていただきたいです。
今の質問が少し違うかなと思うのは、同人誌即売会の運営が文化を創るわけではないんです。あくまで、やろうとしていく人たちのための「場」を作っているだけ。旗を振っても、作品を作る人がいなければ器は空っぽのままなわけで、熱が高まっているところにちゃんと発表できる場を恒常的に用意して行くのが、私たちのやるべきこと。続けることで、1回きりではなく、次につながって、「場」が育っていく。それはコミケを40年以上続けてきて、基本的にはサークルさんや、一般の参加者さんを裏切ることなくやってきたことで培った信頼なわけですよね。それを絶やさないために、「エアコミケ」を楽しんでいただけたらありがたいです。
――描く人は作品を描き、買う人も購買意欲を落とさない。
筆谷:はい。作家さんも間違いなく弱気になっちゃうし、ヘタをするとサークル活動という趣味をやめちゃう人が出てしまうかもしれない。でも現実が落ち着いたら、また戻ってきてくれたらいいんです。
それを可能にするためには、我々コミケの「場」というものがずっと常に現実の世界に寄り添って続いて行かなくちゃいけないと、僕は思っています。続けていくことが……今回の新型コロナウイルスによる中止は、誰が悪いわけでもないけれど、コミックマーケット準備会としての責任の取り方かなと感じています。「次」の機会を作ることで、責任を果たしたいです。
――ブシロードさんのコンテンツのファンは、コンテンツの動向を追いかけ続けることが最大の応援なのでしょうが、企業経営者として木谷さんは今後の展望についてどうお考えでしょうか?
木谷:経営者として一番やらなくちゃいけないのは、社員の雇用を守るとか、給与を守るとか、コンテンツを守ることだと思います。そして、うちのサービスを受けていただいているお客さんの笑顔を、希望を、癒しを守る。そのためには、やっぱりどんな形でもいいから続けていくことが必要なんです。供給を続けることを、やめてはいけない。たったひとことのメッセージでもいいから、続けていくということが大事だと考えています。
――「動きを止めない」ことが重要である、と。
木谷:そうですね。
筆谷:今のキーワードは「動きを止めるな!」ですね。