スマートウォッチ市場と共に成長しているwatchOSと違って、iPhone向けのiOSは成熟期にある。ダークモードを導入、パフォーマンスの最適化を進め、Appleが提供する既存のアプリ群のアップデートと、iOS 13は改善とメンテナンスが中心のアップデートになる。
しかし、iOSに劇的な変化がなくとも、よりインテリジェントなサービス、ユーザーを中心に据えたAppleならではの取り組みによって、iPhoneを使う生活は向上していく。
例えば、iOS 13の写真アプリは、オンデバイスの機械学習を用いて不要な写真や同じような写真を自動的にライブラリから隠し、よく撮れている写真を選び出してくれる。数千枚、数万枚の写真がライブラリにあるユーザーなら、その効果は一目瞭然だ。iOS 12の写真のライブラリを年別表示にすると小さなサムネイルが並ぶだけでどんな写真が含まれているのか分からないが、iOS 13の写真の年別表示にはその年のハイライトのような写真だけが並び、その年に何をやっていたのか一目で把握できる。年別・月別・日別のタブが日記のように機能し、写真をブラウズするのが楽しくなる。
他にも、リマインダーがユーザーがTo-Doに入力する内容を理解し、例えば「ヨガクラスでサーシャに会う」というようにタイプするだけで、ヨガクラスの時間や場所で通知するように自動的に設定してくれる。マップでは、新しいベースマップがロールアウトされた地域において、高解像度3D写真と組み合わせた「Look Around」という機能を利用できるようになる。2DマップからLook Aroundに入ると、実際にその場所にいるように散策できる。iOSキーボードでは、キーとキーの間をなぞるような動作で素早く文字をタイプできる (QuickPath)。
そうした機械学習を用いた機能に対して「Googleはとっくに実現している」という声もあるが、サービス面においてGoogleの背中が見えてきたという見方もできる。加えて、Appleにはプライバシーという強みがある。
例えば、iOS 13では位置情報サービスのコントロールに、位置情報データをアプリと共有する方法の選択肢が追加される。また、「Sign In with Apple」というアプリやWebサイトへのログインにAppleアカウントを使用できるユーザー認証サービスを提供する。FacebookやGoogleなどの同様のサービスだと、メールアドレスや住所、写真、友人とのつながりといった個人情報が共有される不安が残るが、Sign In with Appleはユーザー認証だけを提供し、ユーザーに関する情報は提供しない。たしかに、ログインの煩雑さを解消する認証サービスはすでに存在している。だが、プライバシーに関して安心して使えるSign In with Appleのようなサービスはなかった。
Appleのプライバシー保護に関して、今回これまでとは違う議論が起こったことも紹介しておこう。
プライバシー保護の徹底を、Appleは方針とするだけではなく、今や戦略として、機能やサービスに実装し始めている。Sign In with Appleを発表した後に、AppleはApp Store Reviewガイドラインに以下のような変更を加えた。
Sign In with Apple will be available for beta testing this summer. It will be required as an option for users in apps that support third-party sign-in when it is commercially available later this year.
今年後半に正式サービスになった際に、サードパーティのサインインをサポートしているアプリはSign In with Appleもユーザーが選べるようにしなければならない。この変更に対して、ライバルにぶつけるかのようにSign In with Appleの採用をApp Storeの条件にするのは反競争的ではないかという声が上がっている。プライバシー保護をAppleは独占的な地位の獲得に利用しているという指摘だ。一方で、プライバシー保護を優先したSign In with Appleを選択肢として浸透させることはプラスに作用するという見方もある。例えば、Apple WatchのApp Store (watchOS 6)からインストールしたアプリにSign In with Appleを使ってログインできれば、Apple Watchだけで簡単に、そして安全にアプリを扱えるようになる。そうしたアプリ利用は、ウェアラブルやスマート家電など将来のスマートデバイスの拡大を促すと期待できる。