2018年のNAND Flashで、筆者が最も驚いたのはQLC NAND製品が投入「されてしまった」ことだろう。

  • Photo07:引っ越し当日、捕獲器からリリースされた直後にクーラーの上まで駆け上がって固まるヴィーノさん。さすがに怖かった模様。ちなみに1時間ほどで自発的に降りてきた

そろそろNANDの微細化は限界に近づき、水平方向の密度を上げられない。それが理由で3D化(VIAを利用する3D Stackingではなく、垂直方向に構成したトランジスタを水平方向に積層するような感じ)を推し進めていた。

実際、3D NANDでは寸法の大型化が図られている。これにより無理なく3D構造を実現可能になるので、後は積み上げ方を増やすことで容量を確保しようというわけだ。

寸法の大型化が図られると、寿命の面では結構なマージンができる。であれば「QLC化してもいけるよね」というのは誰しも思いつくことではあるのだが、筆者はこれが2019年に投入される弾だと考えていた。

なぜなら、QLCは多値化のほぼ限界に近い技術だからだ。簡単にまとめれば

  • SLC(Single Level Cell):1bit/cell。電荷は0か1の2段階
  • MLC(Multi Level Cell):2bit/cell。電荷は0/.25/.5/.75の4段階
  • TLC(Triple Level Cell):3bit/cell。電荷は0~0.875まで0.125刻みで8段階
  • QLC(Quadruple Level Cell):4bit/cell。電荷は0~0.9375まで0.0625刻みで16段階

となり、セルの数が同じならQLCではMLCの2倍、SLCの4倍の容量を確保できることになる。

それはいいのだが、んじゃこの先はどうなるか? というと5bit/cell(英語だとQuintuple Level Cellで、略すとQLCになってしまい、4bit/cellと見分けが付かないので別の呼び方になるらしい)はまだまだ実現が困難とされる。

最大の課題は、3D化するときに(寸法の大型化で)寿命を延ばしたのに、5bit/cellの採用でこれがチャラというか、下手をすると3DでないQLCよりも短くなってしまうことだ。

5bit/cellで寿命の問題が再燃

MLCの時代からFlashの寿命は問題になっていた。MLCの場合、記録には2回アクセス(0.5と0.25、2種類の電荷を順に加える)、TLCの場合は3回(0.5/0.25/0.125)という具合に、Cellの多値化に伴い、1回の記録に要するアクセス回数が増えている。

これを短時間でやらないといけないので、1段多値化を進めるごとに寿命(書き込み回数)が1桁減る。もともとSLCだと十万回のオーダーの書き込み回数がサポートされていたのが、MLCで1万回、TLCで千回、QLCで百回となる。

さすがに百回のオーダーは問題があるが、3D化に伴う寸法の大型化で寿命が延びたことで、千回のオーダーに近いところまで寿命を戻した。

これが、5bit/cellを採用すると再び百回のオーダーに戻ってしまう。加えて言えば、多値化を進めるほどエラーが多くなりがちなので、エラー訂正のためのセルとか(欠陥が発生した場合の代替用)冗長セルを多めに取らないといけない。

QLC→5bit/cellでは明らかにこれが大幅に増えると思われるが、そうなると容量を増やしてもかなりの部分がこの冗長セルなどにとられかねない。いくらコントローラを賢くして、レベルウェアリングをかましまくったとしても、商品としてはかなり問題が残る(大容量で安いが、1年持たないSSDを買う気になるだろうか?)。

今後、もっと理想的な絶縁膜が開発されて、セルの寿命が大幅に伸びることがあれば、また5bit/cellは見直されるかもしれないが、現状では5bit/cellを実現するのは(技術的にはともかく商品特性上)極めて困難である。

さらなる積層化で2019年後半に大容量製品が登場する

したがって、QLC化は多値化の最後の砦といえる。それもあって2019年あたりの隠し球に持ってくるだろう、と筆者は予測していたわけだ。ところがこれを2018年に突っ込んだ結果、もう2019年以降に新しい多値化を利用した容量増加は一切期待できなくなる。あとは3Dでどれだけ積み上げるか次第である。

Photo08はStackingに関するTechInsightsのロードマップである。Samsung/東芝/Micronはいずれも2018年に32/64GBチップをリリースしており、Stackは64層になっているが、2018年末にこれが96層にたどり着く。

  • Photo08:出典は同じくTechInsights

ということは容量は1.5倍に増えている(研究発表レベルでは、2018年のFlash Memory Summitで200層近くまで行っているが、試作と量産はまた別であることに留意されたい)。

その次は128層ということになるが、これはSamsungが2019年後半、東芝が2019年末、SK Hynixは2020年ということになる。SamsungのSSDに関しては、2019年後半に大容量製品が期待できるかもしれないが、一般的に現在のものより大容量品が出回るのは、2019年末~2020年にかけてという感じだろうか。

小容量品に関しては、ロードマップの一番下にあるが、中国のYMTC(Yangtze Memory Technologies Company)が2019年から32層の3D NANDを提供開始予定としている。これが問題なく出回るようになると、さらなる低価格化が実現されるかもしれない。