iPhone XSは、ここ最近あまりフォーカスされなかったモバイル通信に関する重要な進化があった。具体的には、以下の5項目が挙げられる。
- 4×4MIMOによるギガビットクラスのLTE、LAAへの対応
- eSIM内蔵により、SIMカードとのデュアルSIMをサポート
- 中国向けにはデュアルSIMトレイによるデュアルSIMサポート
- DSDS(Deal Signal Dual Standby)への対応
- 米国における600MHz帯(バンド71)のサポート
まず、という話をすると、iPhone XSは5G対応デバイスではない。それでも「ギガビットクラス」の通信を実現する理由は、送受信それぞれ4つの電波を束ねて通信する4×4MIMOをサポートしているからだ。
例えば日本のドコモでは、3.5GHz帯域と1.7GHz帯域を束ねることで、受信時最大988Mbpsでの通信をうたっている。これによって実効速度も最大で422Mbpsに達している(※4×4MIMOに対応してきたAndroidでの計測) 。
また、世界中でインパクトを与えそうなのがLAA(License-Assisted Access using LTE)への対応だ。これはQualcommなどが「LTE-U」(LTE-Unlicensed spectrum)として提唱している技術と同様に、免許不要の5GHz帯域を用いてLTE通信を行うことで、電波が届きにくいエリアをカバーし、速度を向上させられる仕組みだ。都市部の室内や遠隔地でスポット的にLTE通信が強化されるのが期待できる。
これらに加えて、Band 71のサポートは、米国のモバイル業界にとって重要な意味を持つ。
600MHz帯は業界3位のT-Mobileがオークションで獲得した帯域で、高周波数域のような帯域幅を稼ぐことは難しいが、長い距離、あるいは建物の中へより到達しやすくなる。これから投資が必要なT-Mobileにとって、安定したエリアの拡大に貢献していくこととなるだろう。しかも、前述の通りiPhone XSは4×4MIMOとLAAをサポートする。T-Mobileは600MHz帯をベースにエリアを構築しながら、複数の帯域での速度向上を図れる手段を得ており、これをiPhoneがサポートすることで、T-Mobileには有利な展開が望めるようになる。
現在T-Mobileは自身が業界第4位に追いやったソフトバンク傘下のSprintとの合併を目指している。Sprintの2.5GHz帯とT-Mobileの600MHz帯の活用は、今後5Gへの投資競争でも、中心的な存在になっていく可能性が高い。