AppleのWWDC 2018で会場がざわめく瞬間が何度かあったが、その中でAppleにとって、最も複雑なざわめきだと感じられたと思われるのがCarPlayの件だ。
AppleはiOS 12から、CarPlayで利用できる地図に、GoogleマップやWazeといったサードパーティーのアプリの追加を発表した。これらのアプリはいずれもGoogleのもので、CarPlayにおいてAppleはある意味妥協した、という見方をすべきだろう。
会場の反応は、やっぱりGoogleマップの方がAppleの地図よりも出来が良いのだろうなという落胆と、より精度の高いナビアプリをCarPlayを通じて利用できるようになるという期待が入り混じったものだった。Appleにとっては、プラットホーマーとして顧客のニーズに応えたとも言えるかもしれないが、地図アプリを作っている手前、手放しに喜べないところもあり、複雑な状況を生んだように思える。
CarPlayについて改めて解説しておこう。CarPlayは、自動車の車載機とiPhoneをUSBケーブルで、もしくはワイヤレスで接続することで、iPhoneをハンズフリーで利用できるようになる機構だ。
同様の技術にAndroid Autoがあり、今日、多くの自動車メーカーがスマホ連携をうたう場合、単なるBluetoothでの通話や音楽再生、通信テザリングを指すのではなく、Apple CarPlayやAndroid Autoを利用した仕組みを備えている、ということを意味している。
米国をはじめとする世界の自動車会社では、AppleのCarPlayをサポートする車種が400を超え、欧州では2018年第1四半期の新車販売の5割がCarPlayやAndroid Autoをサポートした車両だった。
CarPlayの目的は、どちらかというとAppleにとってはリスク管理に近い取り組みと言えるかもしれない。多くの国では運転中のスマートフォンなどのデバイス使用が禁止されている。にもかかわらず、「ながらスマホ」での事故は相次いでいる。こうした事故に対して、テクノロジー企業としていかに対応するか、の答えがCarPlayだ。
運転中は、スマートフォンを触らず、スマートフォンのナビや音楽再生などを利用できる。安全に配慮して、メッセージは文字が画面に表示されず、読み上げのみ。文字入力についてもiOS 12以前では、音声のみでの入力に対応していた。ドライバーはハンドルに備わっている音声認識のボタンでSiriを立ち上げたり、画面のタッチパネルを操作して、限られた範囲でのスマホ利用を車内で行う。
アプリの審査についても触れておこう。申請時にCarPlay対応のフラグを立てると、運転の妨げにならないか、音声による操作は十分か、といった項目が加わり、通過するとサードパーティーのアプリでもCarPlayで利用できるようになるという流れだ。