自分に「無い」ものを作るためには、結局想像するしかない
――ちなみに椎名さんご自身にも、若い頃とは少し目標が変わってきたという部分もありますか?
僕ですか? まぁ、いまも役者やってますからねぇ。役者をやることが若い頃の目標だったんですけど、常に目標探しにはなりますね。もっといい役者になるしかないんです。周りを見渡すと、IT企業家とか新しい職業がたくさん出てきてビッグサクセスしてますけど、「あれ? 役者っていうのは、ずーっと変わんないな」みたいなね。非常にアナログで。僕らも上手くデジタルを使って、自分の分身をあっちの現場に行かせて…みたいに出来ればいいんだろうけどね(笑)。
――確かに、テレビの他にもネットを始め、デバイスはいろいろ増えましたけど、役者さん自体のお仕事は変わらないですよね。
変わらないですねぇ。風邪ひいて声が出なくなったら、現場に行けませんしね。
――今回、古賀のように、グレーゾーンに身を置きながらも、自然と周りに人が集まってくるような人物を演じるにあたって、何か意識したことはありますか?
僕自身は古賀のように「人間力」があるタイプではないと思っているので(笑)、「どうやって古賀みたいな人間力を付けようか」って考えましたね。「いや、いまからじゃ遅いな」とか思いながら(笑)。ただね、どんな役柄を演じる時でもそうなんですけど、たとえ悪人であっても、その人物に共感しようと思ってやるわけです。今回の古賀という役柄は、おそらくほとんどの方が共感できる要素があるタイプの人物なので、これを活かさない手はないんです。もし仮に自分に古賀とは違う「人間力」があったとしても、それをどう出さないかとか、どう見せないかとかは、最初に考えましたね。
――ちなみに、今回はあえて出さないようにした椎名さんご自身の「人間力」とは?
それはもう、至らない「人間力」なので、お恥ずかしくて口にすることは出来ないんだけれども(笑)。うーん、なんだろう? 僕は古賀のような人生を歩んでいないし、生い立ちもそうではないし、妹もいませんし、お母ちゃんも憎んではいませんし(笑)。そういう意味では環境的には「無い無い尽くし」。でも、自分に「無い」ものを作るためには、結局想像するしかないんです。その役柄の目線や思考に合わせたメンタルを作るというか。そこに向かってアプローチしていく。
――なるほど。そのアプローチの方法について、もう少し詳しく伺いたいです!
人間って、自分のなかにもいろんな自分がいるじゃないですか。多面体ですよね。だからきっと、僕にも少しだけ古賀のような一面があると思うんですよ。12色なのか24色なのかはわからないですけど、そういう色を、どういう配分で使ってその役を作るのかっていうことなんです。
――その例え方、すごくわかりやすいです。
古賀という人間と同調できる自分っていうものをね、すごく大きくしていく。そういう作業をするわけですよ。うまく言えないんですけど、そこを現場で膨らませて、そういう人物としてそこに居るための準備をするというか。なんかね、話し方とか、現場の佇まいとかいろんなことを含めて、常に意識は自分の中の古賀という人間に対して向いてますよね。