低燃費だけではないハイブリッドの捉え方
あらゆる技術を総動員し、それらの長所をつなぎあわせ、高性能かつ高効率で燃費が良く、さらに静かで振動の少ない総合システムとしてメルセデス・ベンツが開発したのが、この新エンジンなのである。いうなればハイブリッドなのだが、これまでのハイブリッドは燃費重視で開発される傾向にあった。ターボチャージャーや電動スーパーチャージャーを加えた高性能なハイブリッドとしたところに、総合システムとしてのメルセデス・ベンツの狙いがある。
このエンジンのシリーズ名は「EQブースト」という。EQとはメルセデス・ベンツの電動化技術を表す象徴的なアルファベットであり、「Electric Intelligence」を意味する。今回の動きが、単に新しいエンジンの登場ではなく、あくまで電動化の一環であることを示している。
「最善か無か」で開発した新エンジン
クルマの電気系は、従来ずっと12ボルト(V)のバッテリーを使う電源に頼ってきた。また、エンジン冷却のウォーターポンプや、空調(エアコンディショナー)のコンプレッサー、過給のスーパーチャージャーなどは、エンジン回転から動力を得て駆動してきた。
それらに対し新エンジンは、バッテリー電圧を高めること、および補器類を電動化することにより、ベルト駆動をなくし、全長の短縮を行っている。既成概念であった12V電源や、補器の駆動はベルトによるといった考え方を取り払い、どういう仕組みが目的に対して最適かと考えた開発姿勢を見ることができる。
ダイムラー(メルセデス・ベンツを製造する会社)の起業哲学に、「最善か無か」の言葉がある。開発する新車や新技術が、最善策で作られているかを問う言葉だ。例えば原価低減のため、目的通りの性能を追求できないとしたら、それは最善ではないので、同社にとって無に等しいという意味だ。
そうした厳しい企業姿勢が、EV普及までの時代をつなぐ最善策としてのエンジン開発に向かわせたのだろう。もちろん、最善を求める設計思想は、メルセデス・ベンツのようなプレミアムブランドの高額商品でなければ、企業活動の採算に合わなくなる可能性がある。しかしそれも、歴史に裏打ちされた永年のブランディングの成果であるといえるのではないか。