EVの航続距離についてドイツの考えは
例えばドイツの場合、速度無制限区間のあるアウトバーンが整備されていることにより、200キロの距離を1時間で移動できてしまう交通環境がある。1時間の移動なら、日本でも電車通勤している人が当たり前に費やしている時間ではないだろうか。そういう日常の時間感覚のなかで、片道200キロを日帰りで往復すれば、400キロの行程をドイツではクルマでこなすことができ、途中で寄り道をすることもあるなら、500キロは走れる余裕が欲しくなるだろう。
米テスラのEV「モデルS」は、1回の充電で500キロ以上の走行性能を備えるが、ドイツ人の中には、500キロを1日で走ってしまう人もいる。そういった人達は、予定外の移動も視野に入れて、1,000キロは走れる能力を欲しがる傾向が強いようだ。だが、それに対処できるEVはまだ存在しない。航続距離を倍増させるためにはバッテリー搭載量を2倍にすればよいかというと、バッテリー重量が増えれば航続距離も減ってしまうので、そう単純な話でもない。
EVの選択肢が増え、消費者がEVを志向するようになるまでには、やはり時間がかかる。その間、自動車メーカーは、電動化とエンジン存続の両方を行わなければならない辛さがある。なおかつ、燃費向上によるCO2排出量削減は待ったなしだ。さらに、自動車メーカーにはエンジン生産設備があり、エンジン開発や生産に携わる従業員がいるので、新興のEVメーカーのように、今日から全面EV化というわけにもいかないのである。
EV時代へ徐々に軟着陸させるにはどうしたらいいか。自動車メーカーの苦悩がうかがえる。
直列6気筒エンジンが復活
そうした中で、メルセデス・ベンツが発表した新エンジン技術からは、トヨタやフォルクスワーゲンが語るエンジンの効率化だけでない、パワーユニットをシステムで構築する新たな構想を見てとることができる。
メルセデス・ベンツの新エンジンは、直列6気筒の基本骨格を採用する。直列6気筒とは6つのシリンダーが直線的に並んだ形式で、エンジンの中では最もバランスが良く、振動が少なく、また高回転まで滑らかに回るエンジンとして知られている。かつて1960年代から70年代頃の日産「スカイラインGT」や「GT-R」、「フェアレディZ」、トヨタ「2000GT」など、往年のGTカーやスポーツカーはいずれも、直列6気筒エンジンを採用してきた歴史がある。
海外ではBMWが直列6気筒エンジンにこだわり、英国のジャガーも直列6気筒や、それをV字に組み合わせたV型12気筒エンジンを使ってきた。そのように、高性能車や高級車の証ともいえるのが、直列6気筒エンジンであった。「シルキーシックス」とも呼ばれるこのエンジンは、絹のような滑らかさで回転すると称えられてきた。もちろん、メルセデス・ベンツも直列6気筒を主流としていた。
ところが、1990年代以降は衝突安全性能の向上が求められ、ことに前面衝突において、フロントバンパーと客室の間に衝撃の緩衝部分として十分な空間が必要になった。エンジンは硬い金属の塊であるため、エンジンルーム内でできるだけ小さい寸法であることが空間の確保には望ましい。そこで、同じ6気筒エンジンでもV型にしてエンジン全長を短くすることが行われ、メルセデス・ベンツからも、1997年で直列6気筒エンジンは姿を消している。