iOS 11では、App Storeの全面刷新が盛り込まれた。その目玉となるのは「メディア化」だ。毎日アプリをピックアップして紹介し、またテーマに合わせたアプリのリストを配信し、「毎日見て発見がある場」へと再編成した。
AppleはApple MusicやNews、Apple Storeアプリなどで「Today」というキーワードを活用している。これらのアプリを毎日開けばいつでも、新しいコンテンツやアクティビティが待ち受けているという、そんな象徴的なキーワードとなっている。App StoreにもTodayタブが用意されて、アプリのリリースやアップデートの記事が掲載されるようになり、「今日のアプリ」「今日のゲーム」「今日のリスト」といった情報も発信されるようになった。これまで、Apple系のメディアやアプリにフォーカスしたメディアが、日々のアプリの情報を発信してきたが、Apple自身が、標準内蔵アプリの中で、その役割を務めるようになる点は興味深い。
各記事には紹介文のテキストやインタビューが、読み応えのあるボリュームで掲載されており、動作イメージの画像やビデオをチェックしたり、それらから、すぐにアプリのダウンロードを行える。
App Storeは、iPhoneやiPad、Apple Watch、そしてApple TV向けのアプリをダウンロードもしくは購入することができる場だ。2008年のiPhone 3G登場と同時に登場したので、日本ではiPhone発売当初からApp Storeが存在していた。しかし、2007年1月にiPhoneが発表された際のSteve Jobs氏のプレゼンテーションは、App Storeの存在を予感させることは全くなかった。Jobs氏は当初、App Storeの設置に否定的だったと言われている。
Jobs氏はプレゼンテーションの中で、iPhoneに搭載したウェブブラウザであるSafariで、Web 2.0とAjaxを活用して、標準アプリのような体験を作り出すことができると説明した。つまり、App Storeなどなくても、モバイルアプリの世界をウェブで構築できるというアイディアを持っていたことになる。
これは筆者の推測だが、Jobs氏のモバイルウェブによってアプリを実現するアイディアは、日本のケータイの勝手サイトのエコシステムに影響を受けていたのではないか、と考えている。日本のケータイコンテンツには公式サイトがあり、ここに入るとキャリア決済による課金やアプリの配信を行うことができる仕組みだった。一方の勝手サイトはキャリアの枠に入ることなく、ケータイブラウザの進化に合わせて高度化する公式サイトとは異なるエコシステムを持っており、特にモバイルゲームやSNSなどが発展した。
ところが、2008年に発表されたiPhone OS 2.0にはApp Storeが用意され、公開されたアプリ開発向けのAPIを使って作成されたアプリを、Appleが全て審査し、安全かつ効果的に機能するアプリをユーザーに届ける仕組みを作り上げることになった。App Storeのモデルもまた、日本のケータイコンテンツの公式サイトのアイディアといえる。Jobs氏は、Appleが全て面倒を見なければならない公式サイト型のモデルよりも、勝手サイトのモデルでのモバイルウェブの発展を推したかったのではないかと思うのだが。
とはいえ、App Store設立は、10年後から振り返れば、非常に正しい戦略だった。App Storeのビジネスが属するサービス部門は前年同期比20%近くの成長速度を維持しており、すでに米国の大企業の指標であるFortune 100企業と同等の売上規模になった。
スマートフォン製造販売のビジネスの飽和が進む中で、それを補い、なお拡大する可能性があるApp Storeの成功は、Appleにとって非常に重要なビジネスモデルの転換を生むかもしれないのだ。