前置きが長くなったが、MRヘッドセットの一般発売が年末に集中していることもあり、家庭におけるMR体験(VR体験)はまだアーリーアダプター向けの新製品と言って差し支えないだろう。今回は、普段VRやMRに馴染みのない人から何度かプレイしている人まで、20~30代の男女6人に協力者として集まってもらい、製品を試してもらった。とはいえ、いずれもPCを普段から公私で利用するユーザーだ。

体験するコンテンツは、夜景が煌めくビジュアルが美しいMRアプリ「Free The Night」と、電車に座っているとホラー系の奇怪な光景が次々現れるVR動画の「呪刻列車」の2つ。それぞれを、3人ずつが試した。

  • 夜空と夜景の映像を楽しめるVRコンテンツ「Free The Night」のタイトル画面

まずは「Free The Night」だ。スタートするとプレイヤーは道路沿いの夜景の中に佇む。かなたには街の明かりが見え、道路を上から見下ろしていることにも気が付くはず。気分は巨人だ。MRでは周囲の光景を実物より大きく見せたり、小さく見せることで、あたかも自分の身体が大きくなったり、小さくなったように感じさせるコンテンツもある。普段、経験できない視点を楽しめるわけだ。

コントローラを使い、道路脇の街灯を指でつまむと街灯が弾けるように消え、夜空に星が増えていく。すべての街灯を星に変えると花火が上がって終了。短時間でプレイできる。現在公開しているアプリはデモ版で、11月下旬から完成版が登場する予定だ。

  • コントローラを使い、街灯を指でつまみ消していくことで、夜空に映る星を増やしていく(右)

「酔うかと思っていたけど平気だった」 - Sさんの感想:Free The Night

「酔うかと思っていましたが、案外平気ですね」と話すのは、乗り物や3D映像があまり得意ではないSさん。正面を向いてスタートし、終了時は正面を向いていたつもりが、MRヘッドセットを外したら斜め横を向いていたことに驚いたと言う。

「奥行き感があって遠くのものは遠くに見えるし、街灯を消す時に自分の近くで消すと、パッと光って眩しいのも面白かったです」と、プレイした印象を語った。

今後、どんな使い方が期待できると思うか聞くと「実家への帰省に使いたい」とのこと。詳しく聞くと「実家に360度カメラを置いて、そのカメラの映像がリアルタイムでこのヘッドセットに映し出される、というのが前提で。電話しながら母にカメラを持ち歩いてもらったら、擬似的に帰省できると思うんです。私の部屋に行ってもらって、こちらに送ってもらいたいものを伝えられて便利そう」と言う。

斬新な発想に驚く一方で「立っている者は親でも使え」という言葉を思い出す。火急の時でなくてもナチュラルに親を使う世代なんだなあとしみじみ感じた次第だ。彼女の出身は兵庫県だが、「帰省に掛かる新幹線の片道料金くらいの額だったら、速買いします」との言葉も印象的だった。

  • 街灯をつまんで持ち上げるSさん。サウンドはロジクールのゲーミングヘッドセット「G231」を使っている(左)。「巨人がいます!」と指差しているが、我々がそこに見えるのはもちろん天井だ(右) ※以下、写真ではストラップをつけていませんが、通常は安全のためコントローラのストラップを手首に巻いて使用して下さい※

「サンドバッグと組み合わせたい」 - T氏の感想:Free The Night

一方、「思っていたより酔いました」とコメントしたのがT氏だ。どうやらピントが微妙に合っていなかったのに面倒がってそのままプレイしたらしい。目のピント調整(カメラでいうところのオートフォーカス)が合わないと距離感が掴めず酔いやすくなる。また、目のピント調整に使う毛様体筋に疲労が溜まると、ストレスや肩こり、視力低下の原因になるので注意したい。

今後、どんなコンテンツを期待するか聞いた。「現実に行くことが難しい場所に行くのが面白そうですね。刑務所とか体験してみたいです。物理的に入れない人間の体内とかもいいですね。あと、360度パノラマを活かした教育や訓練用のコンテンツも向いていそう。自動車の教習とか、サッカーの審判の練習とかどうでしょうか」。かなり的確な、実現性の高い提案だ。「他にはサンドバッグと組み合わせて、MRで嫌いな人の顔を表示したら練習が捗っていいと思います!」と爽やかな笑顔で語るT氏。上司には迂闊に聞かせられないアイデアだ。

  • 光を花のように摘むゲームだと説明したら、おもむろに立ち上がったT氏。もちろん、座ったままでもプレイは可能だ(左)。光を摘むT氏。本当はサンドバッグを殴るコンテンツが欲しかったのかも(右)

「こういうのは寝転んでやりたいンすよね」 - C氏の感想:Free The Night

スタートしても、MRコントローラがトラッキングされなかったC氏。新しいものにトラブルはつきものだが、落ち着いて再起動して事なきを得、C氏のPC使用歴の長さを伺わせる。「コントローラーが見えないときは再起動」、地味に役立つTIPSかもしれない。

「頭を振ってもコマ落ちしないのが良いですね。このコンテンツだとVR酔いもしないです。フレームレートの高い映像のときどうなるのか気になりました」と、プレイしながら短い時間の中で気になるポイントを確かめていたようだ。玄人である。

改善を期待する点も的確かつ矢継ぎ早でなかなか手厳しい。「VRやMRのコンテンツ全般に言えることですが、画面上で操作の説明が欲しいです。とりあえず始めちゃう人は多いでしょうから。あと、MRヘッドセットとPCの画面で同じものが表示されたほうが状況を把握しやすいですね。現状だとロードしているのか、固まってしまったのか分かりづらいです」。確かに、プレイ前やプレイ中のロード時間は、何の表示もないまま画面が停止した状態が続き、ロードなのかPCが固まったのか判断しにくい。これは全面的に同意したい。

C氏に自宅で使ってみたいか聞くと「スカイダイビングのコンテンツとかあればやってみたいですね。でも、俺、どっちかって言うと、こういうのは寝転んでやりたいンすよね」とのこと。色々なニーズがあるものだと改めて気付かされる。実際のところ、仰向けはどうにかなりそうだが、うつ伏せはハードルが高そうだ。

  • 街灯をつまんでみせるC氏(左)。「花火が見えますね」と淡々と語る(右)