――VAIOのPCには、やはり尖ったものを期待してしまいますが。
吉田氏:あまりにも尖りすぎた製品はすぐに飽きられてしまう傾向もありますから、そこはさじ加減が必要です。大きな花火を上げて、そこで大きな注目を集めても、半年で飽きられてしまって、経営判断によって、その製品をやめてしまうということは決していいことではありません。
いまのVAIOは、なんでも好きなことができるという状況にはありません。ですから、みなさんが期待するような「尖った製品」というのは登場しないかもしれません。余裕があれば、尖った製品を出すことはできます。しかし、いまのVAIOの規模ではそうした余裕がありません。本流でやらなくてはならないことがたくさんありますから、本流のなかで先につながる製品を作らなくてはなりませんし、収益を改善させることが最優先です。そして、売上げを拡大するためには、ラインナップを広げていくことが大切です。
その際のキーワードは「ユース別」です。消費者行動が変化し、用途が広がっています。スマホやタブレットでいい人もいますし、やはりPCが欲しいという人もいます。PCのなかでも15型ディスプレイを搭載したノートPCが欲しい人がいる一方、モバイルを重視する人は、持ち運びに最適な機能を搭載し、LTEへの対応もして欲しいという声があります。
――9月に発表した新製品は法人向けやLTEへの対応を大々的にうたいましたね。
吉田氏:先に発表した新製品のラインナップ強化も、お客様のニーズを的確に捉えた進化だといえます。ただ、あくまでも主力は、11型と13型のモバイルPCです。今回、LTEを搭載できる機種を増やしましたが、これは非常に重要な機能だと考えています。LTEによって常時接続が可能になりますし、SIMを搭載しますから、個体認証が可能になり、セキュリティも強化されます。VAIOが、法人市場での存在感を高める上でも重要な製品になります。
かつては、企業においても低価格のPCを導入する傾向が強かったのですが、それでは社員のモチベーションがあがらない、という声があがりはじめています。薄くて、軽くて、高性能であり、セキュリティがしっかりしたPCが欲しいという声が、多くの企業で社員の間からあがっています。
13型という最も売れ筋のところにLTE搭載モデルを用意したことで、VAIOの法人向けビジネスを加速できます。また、家庭内においても、隣の部屋から2kg近いPCを持ち運ぶのは大変です。ここにも、11型や13型のニーズがあると考えています。
モバイルの領域は、VAIOの個性が発揮できるものであり、その姿勢は当面変えません。VAIOのデザインを踏襲しながら、使い勝手のいい形に進化させていきます。ベンツやBMWといった自動車メーカーのクルマは、遠くから見ると新モデルでもそれほど大きな変化を感じませんが、中身は大きく変わっている。VAIOも同じような進化を遂げています。
――VAIOは、海外事業をどう位置づけていますか。
吉田氏:VAIOが独立してスタートしたときには、VAIOを、国内だけのブランドと位置づけていました。しかし、海外においても強烈にブランド力があり、扱わせてほしいという声が出てきました。それに向けて、身の丈にあったビジネスとして、南米(ブラジル、アルゼンチン、チリ、ウルグアイ)でのライセンスビジネスや、北米での特定ルートでの販売を行ってきました。ブランドマネジメントがしっかりできるのであれば、こうしたライセンスビジネスを展開していくことは間違いではないと思っています。
今回、新たに開始した中国での取り組みは、1年ほど前から話し合いを進めてきたもので、ノートPCの販売ではトップシェアを持つJD.COMと連携し、eコマースで中国全土をカバーすることになります。
数十社と提携するモデルではなく、1社とのパートナーシップですから、手間暇がかからず、中間マージンも抑えられ、大きな在庫も抱えなくて済みます。かつてのような多くの量販店にブースを構えて、大量の流通在庫を持って展開するという手法は、私もかなり痛い目にあってきましたが(笑)、これまでとは違う新たな手法で打って出たわけです。
そして、手を組む1社の実力も、年間数100万台を販売するという大きなものであり、先方が本気になってやりたいと言ってきた。これがうまくいけば、次の一手にも拡張することができますから、いわば、ポテンシャリティを持った連携が実現できました。3年後、5年後が楽しみな地盤が構築できたともいえるわけです。
ボートに乗っても、釣り糸を垂らさないと魚は釣れません。そうした仕掛けをいまからしておくという意味でも重要な一手になります。中国のビジネスは、将来を見据えて、まず3年間はじっくりとやりたい。いきなり中国にいって、100万台売りますというやり方はしません。「100万台売りました」というのは格好いいですが、慌てすぎると、次の年には「50万台に下がりました」ということにもなりかねません(笑)。丁寧に積み上げていくことを優先します。