VAIOのフラッグシップ・Zシリーズと、売れ筋のVAIO Sシリーズ

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――吉田社長は、PC事業を担当する社員に対して、どんなことを言っているのですか。

吉田氏:いま、私が言っているのは「守りに入るな」ということです。この3年間を振り返ると、やはり、かなり守りに入っているという印象があります。限られた開発リソースのなかでどうするか、というやり方が染み込み始めています。

これはこれで大切なことではありますが、VAIOはここにきて、フェーズが変わり、ギアを変えなくてはいけない。3期連続の最終黒字、2期連続の営業黒字によって、構造改革のフェーズ1は終わり、これから3~5年は、フェーズ2として成長戦略を進めることになります。ギアを変え、考え方を変えなくてはいけません。

ただ、こういう話をすると、最初は現場も戸惑うわけです(笑)。そこで、まずはアイデアを出して欲しいと言いました。「もし、アイデアが机の下にあるのならば、机の上に乗っけてくれ」と言っています。それを開発するのか、商品化するのかは、経営判断になりますが、社長としては、社員がどんなアイデアを持っているのかをまず知りたい。そして、これまでの延長線上にはないようなアイデアも欲しい。そうしないと、3年先、5年先にVAIOが開発するPCが陳腐化してしまう可能性がある。

そこをしっかりと考えてほしいと思っていますから、技術動向や市場動向を見据えたテーマを持って、次のPCを考えてもらうといったことを始めています。これまで固くなっていた頭を、少しほぐすといった活動ですね(笑)。

VAIO代表取締役 吉田秀俊氏

――いいアイデアは、机の下にありましたか。

吉田氏:これはVAIOのいいところでもあるのですが、240人の社員が危機感を持っていること、そして、新たな事業のアイデアについても、部門を超えて情報を共有したり、知恵を出し合ったりということが普通に行われているのです。

若い社員ほどそうした意識が強くて、縦割りの「縦の敷居」がすごく低いのです。たとえば、第3のコア事業として、VRソリューション事業に参入すること発表しましたが、これについても、社員全員がアイデア出しをしていました。そのなかで取捨をして、選んだのがVRソリューション事業だったわけです。

アイデアのなかには、VAIOがリソースを持たないもの、関連性がないものもあったのですが、VAIOという会社は、アイデアを生み出すという活動が社員のモチベーションを高めることにつながる会社であり、その積極性にはむしろ驚いているほどです。机の上に出てきたアイデアを見て、「これはやってみたい」と思うものも出てきましたよ。詳細については、いまは言えませんが(笑)。

――「守りに入るな」という言葉は、「尖った製品を作れ」というのと同義語ですか?

吉田氏:それは違います。「守りに入るな」というのは、たとえば、クラムシェアル型のノートPCは、5年先も、10年先もこのままか、この形なのかということを考えて欲しいということなんです。

クラムシェル型は来年も売れ筋であることには間違いないでしょう。再来年もそうでしょう。でも5年先にはどうなるのか。

私もそうですが、エレクトロニクス業界の経験者であれば、アナログからデジタルへの変革において、良い目にも、悪い目にもあっているわけです。そして、変化がどれぐらい強烈なものであるのかということも体感しています。それを忘れてはいけません。

テレビや携帯電話のプレーヤーが変わり、形や機能も変わってきている。次の「改善」ではなく、次の「進化」を見据えた開発姿勢が必要です。そして、本流になるかを見極めることが必要です。「守りに入るな」というのは、「5年先に、光る製品を作り続けているか」という問いでもあると思ってもらった方がいいですね。