その大きな問題とは、日本に留まっていた材料メーカーや装置メーカーのシェアの減少。たとえば液晶パネルに使用されるカラーフィルターは、2004年に全世界で約70%のシェアを日系メーカーが獲得していたが、わずか7年後の2011年には、15%まで減少している。積極的な技術供与の結果、台湾メーカーにおける材料調達の内製化が進んだことが要因だ。

また、製造装置でも同様の動きがみられた。スパッタリング成膜装置やCVD成膜装置、ドライエッチング装置についても、協業を背景にして技術が流出。さらに韓国における製造装置の国産化を振興する動きのなかで、韓国メーカーがこれらの技術を獲得し、韓国メーカー製の製造装置が広く利用されるようになった。

一方で、こうした流れに追随しなかったのが、ガラスメーカーである。台湾、韓国などにも生産拠点を設置しているが、これらは日系メーカーの独自資本で設置しており、海外メーカーへの技術流出が起きていない。その結果、2004年には、約30%だった日系メーカーのシェアは逆に、2011年に45%以上まで高まっているのだ。

つまり、技術流出は、液晶パネルメーカーの競争力を弱めるだけでなく、材料メーカーおよび装置メーカーの競争力を弱めることにもつながっている。そして、前回触れたように、日系メーカーの薄型テレビやノートPC、スマホなど、液晶ディスプレイを使用した最終製品のシェアも減少。いまでは世界市場での存在感が薄い。つまり、最終製品を生産するセットメーカーの競争力を弱めることにもつながっているのだ。

「これ以上、海外に技術流出するような動きが加速すれば、日本のディスプレイ産業の先行きが不透明になるだけでなく、日本経済にも大きな影響を与えることになる」と、シャープの桶谷氏は警鐘を鳴らす。

最終製品を例に取れば、薄型テレビやノートPC、スマホなどある程度の普及が見られた製品だけに、今後の成長は限定的という見方もあるが、それ以外に目を転じれば、ディスプレイの応用範囲はまだまだ広がることになる。そして、そこには日系メーカーが活躍できる場が数多くある。

第4次産業革命が到来し、ロボットおよび自動生産、IoTなどのハードウェア、あるいは人工知能(AI)などのソフトウェアといった日本が得意とする分野においても、ディスプレイは重要になる。クルマの自動運転においても、ディスプレイの活用は不可欠だろう。こうした中で、日本がディスプレイ産業において競争力を失うことは、日本における成長分野の育成、強化においても、大きな影響を与える。

「それは、液晶パネルの競争力を失った途端に、薄型テレビやノートPCの競争力が失われたのと同じ。日本の競争力を低下させないためにも、日本の中にディスプレイ産業を残すことが大切である。安易に海外へ技術を移転することは避けるべき」(桶谷氏)

こうしてみると、シャープが「大日の丸連合」という言葉を使うのは、JDIとシャープというパネルメーカー同士の協業に留まらず、日本の装置メーカーや材料メーカー、そして最終商品を開発するセットメーカー、さらには、日本の他の産業の成長までを見据えた日本企業の連合体を形成する意味が含まれているというわけだ。