経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)がグローバルパートナーとの出資を含む提携を模索するなか、「今こそ、ディスプレイ事業における『大日の丸連合』の結成が必要だ」と、シャープ 上席常務 ディスプレイデバイスカンパニー社長の桶谷 大亥氏は話す。

桶谷上席常務が理由の一つとして挙げるのが、過去の液晶ディスプレイ産業における失敗だ。台湾、韓国への技術流出が、日本の液晶ディスプレイ事業全体の競争力を弱めた経験から、二の鉄を踏まないことが大切だと話す。そして「大日の丸連合」と呼ぶ言葉には、単にパネルメーカー同士の提携に留まらない大きな意味を込めている。果たしてその意味とはなんなのか。

シャープ 上席常務 桶谷 大亥氏

韓国の価格競争力への対抗、それが台湾メーカー成長の礎に

なぜ、日本から液晶に関する技術流出がはじまったのか。

前回も触れたように、1997年のアジア通貨危機が発端となり、韓国経済は「超ウォン安」という市場環境に陥った。しかし、韓国のサムスン電子やLG電子にとっては、輸出ビジネスへの大きな追い風となり、液晶パネル事業と液晶テレビ事業で攻勢をかけはじめたのだ。

その一方で日本は安定通貨として円高の環境にあり、輸出産業にとって逆風が吹いていた。ウォン安を背景に、液晶パネルを戦略的価格で販売する韓国勢の攻勢を受けて経営が悪化し、それに耐えきれなくなった日系各社が取り始めた一手が、台湾メーカーとの協業による技術供与だったのだ。

東芝とパナソニック、三菱電機、富士通の各社は、それぞれに台湾の液晶メーカーと協業を開始し、シャープもその例に漏れず、協業を開始した。これによって日系メーカー各社は技術供与で得た資金をもとに、低コストで生産できる生産パートナーを最小限の自己投資で確保することに成功。韓国メーカーに対抗できる地盤を作り始めた。

だがこの戦略が、結果として台湾の生産能力シェアを引き上げることとなり、1998年に10%以下だったシェアが2004年に約40%と、トップに踊り出るまでに拡大したのだ。協業の結果が、生産能力シェアを引き下げることになっただけでなく、最先端の液晶技術も台湾メーカーへと渡ることになったのだ。

ある業界関係者は、「目の前に小遣い稼ぎのために、技術を供与したツケは、その後の日本の液晶ディスプレイ産業に大きなマイナスとなっている」と振り返る。そして、技術供与が生み出した問題はそれだけではなかった。もっと大きな問題を生んでしまったのだ。