―― 一例として挙げたAcerの冷却技術とデータエコノミーとは、どうつながるのですか。

チェン氏 : Acerには、優れた冷却技術があります。ノートPCとしても利用できる最新の2in1タブレット「Switch Alpha 12」には、Acer LiquidLoop(エイサーリキッドループ)という液体冷却システムを搭載しています。これはクルマの水冷システムをヒントにして開発したものなのですが、液体の蒸発と凝縮を利用して放熱を行う仕組みを用い、ファンレスのPCを実現しました。静音性に優れ、CPUに負荷がかかっても、音が静かなまま動きます。また、常に温度を低く保つことができます。

Switch Alpha 12

私はIntelに14年間、TSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー)に9年間在籍しており、半導体業界が最も長いのですが、新たな冷却技術はその経験を生かして開発したものです。もともとパフォーマンスと温度はトレードオフの関係にあり、PCは激しく使えば使うほど、温度があがり、パフォーマンスが下がります。パフォーマンスと温度を、最適なところでどうクロスさせるかは重要な課題といます。

Switch Alpha 12の基板と、Acer LiquidLoop冷却システム。マザーボードを覆うように大きなヒートシンクがあり、ヒートパイプによって熱を循環、冷却する

これを解決するために、熱を抑えつつ、パフォーマンスを維持できる仕組みを多くの技術者たちが考えてきました。しかし、たどり着く技術は「ファン」です。PC業界は40年間、ファンを採用し続け、ユーザーは好き嫌いに関わらず、ファンを搭載したPCを使い続けてきました。液体による冷却技術はこれを変化させます。

もうひとつ、ゲーミングPCのようにさらに負荷がかかるものに対しては、新たなファンを開発しました。多くのファンは素材がプラスチックです。対してAcerは、メタルでファンを開発しました。AeroBladeと呼ぶこのファンは、羽根をわずか0.1mmまで薄くし、ファンの羽根の数を増やすことで、これまでとは比較にならないほどの冷却効果を生むことができました。さらに、大型飛行機のエンジンからヒントを得て、ファンのノイズを下げることができるようになりました。

また、ファンが同じ向きだと一方向からホコリを吸い込み、それが蓄積されて冷却性能に影響し、CPUのパフォーマンスが発揮されにくくなります。そこで、DustDefenderと呼ぶ仕組みを導入し、軽量のファンを逆回転させることで、デバイスからホコリと熱を外に出すようにしました。シンプルなアイデアですが、こうしたアイデアが冷却を大きく変えています。オーバークロックを活用するゲーミングPCユーザーにとっては、こうした冷却ソリューションが極めて重要であり、1時間、2時間、3時間と、プレイする時間が長時間化するほど、技術の真価が発揮されます。

では、この技術と、データエコノミーがどうつながるのか。こうした技術を活用することで、たとえば、ゲーミングPCが大きく進化し、バーチャルリアリティ(VR)などの世界においてもパフォーマンスを発揮できるようになります。Acerはこの技術を活用しながら、アイマックスとの協業を開始するといった動きも開始しました。こうした先進の環境を実現できる冷却技術があるからこそ、VRのコンテンツ制作においても、優位性を発揮できるわけです。

さらにAcerは、スウェーデンのスターブリーズと設立した合弁会社を通じて、VRのコンテンツを持っています。今後3年間で、約20のVRコンテンツを制作し、新たなビジネスに育て上げたいと考えています。スターブリーズはエアバス向けのフライトシミュレータ・コンテンツを制作し、Acerの技術を活用して、スターブリーズのVRデバイスであるStar VRに横展開し、コマーシャル分野での成功につなげています。そして、VRコンテンツの制作においても、多くのデータを収集してデータを生かし、分析すれば、新たなものを生み出すことも可能です。これがデータエコノミーを軸としたビジネスの考え方につながります。