電動車両の普及を遅らせかねない日本特有の事情
日本は、都市部への人口集中が永年にわたり続いており、所得の多少を問わず集合住宅に住む人が多い。その集合住宅では、管理組合が建物、敷地、付属施設など、住民の共用部分の管理を行っている。そして、住民代表の管理組合を構成する人々の合議で、物事が進められる。
EVやPHVの購入を望む住民が、駐車場に充電用のコンセントを設置したい場合にも、この管理組合に諮る必要がある。ここで、反対意見があると充電コンセントの設置ができなくなり、EVやPHVの購入を諦めなければならなくなってしまうのである。
反対の理由は、必ずしも合理的であったり論理的であったりするとは限らず、感情的な場合もあるようだ。例えば、「自分はクルマに乗らないから」という意見もあれば、理由もなく「とにかく反対」と、自説を曲げない人もあると聞く。こうなると水掛け論だ。
結果、例えば日産リーフの場合、販売のおよそ9割は戸建て住宅に住む人に限られている。しかし、先にも述べたように、日本では所得の多少にかかわらず集合住宅に住む人が多いため、EVとPHVに商品性の高い新車が出てきたとしても、販売台数は見込めないのだ。
この課題には、三菱や日産に続いて、トヨタも直面している。プリウスPHVの販売台数にも影響していそうなのだ。充電の必要のないハイブリッド車(HV)のプリウスは、発売から平均でおよそ毎月1万5000台以上が売れているのに対し、プリウスPHVは4分の1近い4000台平均しか売れていない。もちろん、価格差もあるだろう。だが、EVと同じように家庭で充電できなければ、なにもPHVを買う必要はなく、HVのままで十分と言えるのである。
そんな中、BMWは日本市場でもPHVの品揃えを拡充し、またEVのi3でも販売に力を入れている。PHVの普及に向けては戦略的な取り組みも進めているようだ。
PHV普及に向けた戦略的な価格設定
PHVは内燃機関と電気の双方で走行できるのが特徴だが、2つのシステムを搭載するので価格はどうしても上がってしまう。そこでビー・エム・ダブリューは、PHVの販売価格をエンジン車に近い戦略的な設定とし、購入しやすくすることで、PHVの魅力を多くのユーザーに体感してもらおうとしている。
例えば「3シリーズ」というBMWの中核車種の場合、ガソリンエンジンの「320i」とディーゼルエンジン車の「320d」が532万円(税抜き)であるのに対し、PHVの「330e」は579万円(税抜き)である。これに、20万円ほどの補助金の優遇を加えると、価格差はより詰まることになる。
この価格設定がどれほど戦略的であるかは、3シリーズの競合となるメルセデス・ベンツ「Cクラス」の場合をみると分かってくる。ガソリンエンジンの「C200アバンギャルド」が530万円(税込み)からであるのに対し、PHVの「350eアバンギャルド」は726万円(税込み)からという設定で、200万円近い価格差となっているのだ。
過去3シリーズにも、「アクティブハイブリッド3 Mスポーツ」というHVがあったが、それは838万円もして、フラッグシップモデル的な扱いであった。それでは販売台数は見込めず、省エネルギー効果は限定的だ。そこから大きく転換を図ったのが、現在のBMWの電動化への取り組みなのである。
そして、まずは輸入車における電動化の様子を体験してほしいと、ビー・エム・ダブリューは語るのである。