AR Kitのデモは、ハンズオン会場でのものと、それとは別のものを見る機会もあった。これらを通じて感じたことは、非常に正確に空間や距離、物体のサイズを測っているという点だ。ビデオではテーブル面のみの平面を認識しているが、他のデモでは、テーブルの他に床も認識しており、それぞれ異なる物体、テーブルの上にはカップとランプ、床の上にはイスを置いて、同時に平面を認識し続け、正しい遠近感での表現を続けることができていた。

ビデオにあったデモのうち、2つ目の映画『スター・ウォーズ』のキャラクターをフィーチャーしたチェスゲームでは、バーチャルなゲーム盤のサイズが、机の平面のサイズとマッチせず、なかなかゲーム盤を置くことができなかった、ということが起きた。用意されていたテーブルの中央部分にはケーブルを捌くための溝があったため、ここで平面が切れている、という認識をしていたのではないか、と推測される。

もちろん、デモとしては若干の不手際にも見えるし、ちょっと机の面積が足りなくても無理矢理置いてしまえば良いのに、と思うのだが、AR Kitにおける平面の認識のなかで、長さや面積が正確に認識されていることの裏返しと見ることもできた。

使っていたのは最新のiPad Proであり、iPhone 7のiSightと同じ1,200万画素のカメラだ。基本的にはこのカメラとCPUにGPU、モーションセンサーといった、既存のデバイスに組み込まれている機能のみでAR対応を可能としており、それでストイックなまでの正確性を実現している点は、非常に興味深い。

iOSデバイスの機能だけでAR対応が完結する

他方、MicrosoftのHoloLensやGoogleのProject Tangoのように、環境を立体構造として認識したり、その上にテクスチャを貼り付けたり、といった機能はない。つまり、AR Kitは表現力の点で「最高」を追究したフレームワークではなく、大多数のアプリの上で、一様に同じ動作をしてくれる、数を武器にしたAR環境であることが分かる。