テーマは、実社会とアプリ世界の融合
アップルは、ARについて、非常に大きな可能性を感じている。ARKitを披露する以前から、ティム・クックCEOはメディアの取材に対して、仮想現実(VR)よりもARが将来の生活を大きく変える、という発言を繰り返してきた。
アップルがARを重視する理由はいくつかある。VRに必要なゴーグルをアップルがまだ有していないこともあるが、街中でVRゴーグルを装着して行動する世界が数年後に訪れるとは想像していない点が大きい。iPhoneだけで実現できる未来は、VRではなくARなのだ。
ただ、次のiPhoneではVRに関するなんらかの機能が盛りこまれることが期待できる。アップルはWWDC 2017でMacの性能を大幅に引き上げており、VR編集環境として活用できる点をアピールしたことからも、その期待感は高まる。
一方のARは、日常的に多くの人が、スマートフォンを用いて利用するメディアになる、と考えているだろう。既存のデバイスでARアプリを実行できるようにしており、ライセンス不要でAR環境を開発者に開放している点からも、そういう考えが妥当だ。
ARは、アプリによる現実空間への関与、ととらえるべきだ。
例えばイケアの家具の例であれば、購入前にその家具がある部屋を再現し、そのスペースに収まるのかどうか、雰囲気はどう変わるのか、といったことを先取り体験できる。
ARKitだけでなく、位置情報や環境情報等を複合的に用いたアプリとなると、既存のアプリにもARを持ち込む可能性が広がっていくことになる。
繰り返しになるが、ARKitそのものは、開発者に対して、無償でARアプリを開発する環境を与えるものであり、既存のARの取り組みやアプリよりも優れているわけではない。もちろん今後のARKit自体の進化は期待できるが、それ以上に、開発者たちがARをどのように料理するのか。そうした開発競争のプロセスに入ったことが重要だといえる。