iPad Proは、特に9.7インチモデルについて、マーケティング的にはパソコンの代替としての存在を目指すものだ。CEOのティム・クック氏に言わせれば、「なんで今この時代にPCなんて買うんだろう?」となる。
そんな状況下で9.7インチモデルに加えて12.9インチモデルも用意するiPad Proは、クリエイターにとって、ワークフローに取り入れられるマシンと認識してもらいたいはずである。
しかしながら、Windowsソフトウェアがそのまま動き、ペン操作が可能なSurface Proと比べると、コンピュータのワークフローをそのままiPad Proに移行できるというわけにはいかない。なんとかして、このジレンマを解消しなければ、「タッチスクリーン付きのWindowsにしよう」という流れは止められまい。
そこで少しヒントになるのが、Appleがリリースしているプロフェッショナル向けの音楽編集アプリ、Logic Pro Xだ。Logic Pro Xには、iPhone・iPadで動作する「Logic Remote」というアプリを配信している。
このアプリを使うと、再生コントロールやトラック音量などのフェーダー操作を、タッチスクリーンで行うことができる。しかも、複数のフェーダーを同時に操作する感覚は、実際のミキサー卓での操作を彷彿とさせる。
AppleはLogic X Proを、既に新型MacBook Proに採用されているタッチインターフェイス「Touch Bar」に対応させている。しかしここでは、複数のフェーダーを同時に表示させると言うよりは、ナビゲーションや鍵盤、ドラムパッドなどの用途に活用しているだけだ。
つまりTouch Barと、連携させるiPadやiPhoneでは、同じマルチタッチテクノロジーを用いていたとしても、インターフェイスとして異なる役割を持たせようとしているのだ。こうした活用を、Appleの他のプロ向けアプリや、サードパーティーアプリに対して広めていくことは、統合型のSurfaceシリーズなのか、iMacもしくはMac Pro+iPad Proの複合型のどちらが有利なのかを決めて行くことになるだろう。
Appleは6月に開発者会議を開催する。今回の話題に関連して注目すべきは、macOSとiOSの間で、インターフェイスやディスプレイなどの連携を容易にする仕組みが、OSレベルで用意されるかどうかだ。以前ラインアップされていたMacの名前にちなんで、例えば「Air Duo」みたいな名前の機能になると面白いのだが。
松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura