Edgeは信頼たるWebブラウザーとなったのか?
Windows 10 バージョン1703ではMicrosoft Edgeの機能強化が幅広く行われている。こちらのサイトを見ると一目瞭然だが、まずは1つずつ紹介しよう。Microsoft EdgeはEPUBファイルリーダーとなり、これまでリーダー不足だった現状を大きく変えた。今回はO'Reilly Japan発刊のMatt Garrish著/高瀬拓史訳「EPUB 3とは何か?」を使わせて頂いているが、日本語対応や可読性など特に問題はない。
表示領域部分をクリックするとコントロールバーが現れ、左側のハンバーガーボタンは目次を表示し、その右側のボタンはブックマーク(しおり)、さらに右側の虫眼鏡ボタンは検索機能を呼び出せる。バー全体の右側に並ぶボタンは左からテキストサイズの変更を行う<オプション>ボタン、読み上げ、ブックマークの追加。なお、目次は[Ctrl]+[Shift]+[C]キー、ブックマーク自体は[Ctrl]+[B]キー、検索機能は[Ctrl]+[F]キー、オプションは[Ctrl]+[Shift]+[O]キー、ブックマークの追加/削除は[Ctrl]+[Shift]+[D]キーで実行できる。
興味深いのは音声合成エンジンによる読み上げだ。もともとWindowsには視覚障がい者向けサポートツールである「ナレーター」を備えており、ディスプレイに表示されたテキストを読み上げることは可能だった。実際に試してみると、Windows 10にインストール済みの音声合成エンジンを選択し、読み上げスピードを調整すれば、"ながら聴き"でEPUBを読む(?)ことができる。市販のオーディオブックと比べると少々厳しい部分はあるため、音声合成エンジンの刷新に期待したい。
地味に便利なのがタブの保存機能だ。Webサイトの閲覧時は複数のタブを大量に開いてしまい、OSの動作に悪影響を与えてしまうことはよくある話だが、本機能はセッション内容(=開いているタブ)をそのまま保存し、必要に応じて後から呼び出せる。このセッション情報はMicrosoft Edgeを閉じても記憶しており、サムネイルを押すと個別復元し、<タブの復元>を押すとまとめて復元するので、一時的なブックマーク領域として活用する際に便利だろう。
ブックマークなどのインポート機能はMicrosoft Edgeへの移行をうながす重要な機能だが、Internet Explorer及びGoogle Chromeに対してはブックマーク/閲覧履歴/保存済みパスワードなどをインポートできるが、Mozilla Firefoxはブックマークのみという少々残念な状態だ。また、ブックマーク類はHTMLファイルとしてインポート/エクスポートする機能も備えている。その他の機能として、Adobe Flashコンテンツのブロックやタブで表示しているWebページのサムネイル表示など、いくつかの新機能が加わった。
タブにマウスオーバーするとサムネイルが現れるのも新機能の1つ |
Microsoft Edge拡張機能をWindowsストアで表示させた状態。こうしてみると結構増えたものの、他のWebブラウザーと比較すると寂しい限りだ |
だが、本当に注目すべきはPayment Request APIとサンドボックスの機能強化である。前者はMicrosoft EdgeやWindows 10 Mobileの「Microsoft Wallet」と共に動作し、EC(電子コーマス)サイトへの入力を簡素化するものだ。通常であれば自身の住所やクレジットカード情報などをECサイトに登録するが、そのWebサイトが信頼に値するか否かが障壁となり、カートに商品を入れても決済せずにWebサイトを閉じた経験をお持ちの方も少なくないだろう。この部分をWindows 10が担い、ユーザーが承認した時点で個人登録情報をECサイトに送信するのが本APIだ。残念ながら執筆時点で本APIをサポートするECサイトは存在しないものの、Windows 10はWindows Helloに代表される強固な本人認証が可能になっているため、仮に普及すれば快適なショッピング体験になるだろう。
後者であるサンドボックス化自体は目新しいものではない。Internet Explorerでも、保護モードや拡張保護モードで実現していた機能である。当時はサードパーティー製Webブラウザーの勢いからInternet Explorerに目を向けるユーザーも少なく、あまり認知されていないが、新たなMicrosoft EdgeはWebページの表示に対してもコンテナーと同じようにサンドボックス化すると言う。
上図はMicrosoftが作成した概念図だが、「Extensions App Container」「Flash App Container」はWindows 10 バージョン1607のMicrosoft Edgeでも実現していた。この枠組みをインターネットやイントラネットなどにも広げたのがポイントである。本稿をご覧の読者諸氏は「イントラネットは関係ない」と思われるかも知れないが、無線LANルーターなどネットワークデバイスの設定ページを思い返してほしい。それらはローカルIPアドレスでアクセスするため、イントラネットに類するのだ。何らかの原因でネットワークデバイスを標的とするマルウェアが侵入した場合でも、新Microsoft Edgeであれば同デバイスに対する攻撃を一定レベルで抑止可能になる。
正直なところMicrosoft Edgeは、サードパーティー製Webブラウザーから移行を決断するまでの機能は出揃っていないが、進捗状況は目を見張るものがあることに読者諸氏も異論はないだろう。だが、Mozilla FirefoxやGoogle Chromeと比較すると、低スペックなPCでは単純なパフォーマンスや安定性を欠くため、常用するのは少々厳しい。開発陣にはRedstone 3に向けて機能性よりも安定性とパフォーマンスに対するUX(ユーザー体験)の改善を望みたい。