セカイカメラはiPhoneが日本に普及し始めた頃、カメラの映像をスルーし位置情報を用いて情報をマッピングする、という手法を実現したアプリだった。セカイカメラ上に情報がなければ、いくらiPhoneをかざしても何も起きない。

そのおよそ5年後に登場したPokemon GOは、ゲームとしてポケモンを出現させ、それを捕まえるルールを敷いたことで、実社会をゲームのフィールドに帰る感覚を広く人々に体験させることに成功した。

今、ARといえば、これ。モバイルゲーム「Pokemon GO」

ゲームではなく、日常でARを使う際は、やはりセカイカメラのように、ブラウザとしてのARの用途が拡張されていくことになるはずだ。それを実現するための技術は整ってきていると言える。まず、画像認識。街のランドマークや動物園の動物をかざしたとき、画像認識によってこれは何かを表示することができれば、セカイカメラのように情報を細かくその場所に置く必要はなくなる。もちろん、誰かのiPhoneが解析したランドマークについては、位置情報を使ってその解析データを再利用しても良いだろうが、まだデータが置かれていない場所で新しいものを見つけても、それが何かを理解する助けになるだろう。

また、人のナビゲーションをより分かりやすくすることもできるだろう。道や通路を認識して、その上に矢印をマッピングすれば、分かりにくい入り口への誘導も可能になる。画像を認識してユーザーの居場所を把握できるようになるため、AR対応は、GPSやビーコンに頼らない位置手段にもなり得るのだ。

もし自宅にHomeKitデバイスを導入しているなら、部屋でiPhoneをかざしたとき、操作可能なデバイスがポイントされ、直感的にコントロールすることもできるようになるだろう。現在のHomeKitデバイスでは、個別デバイスの名前付けと、確実な部屋割り設定が重要であって、直感性はまるでない。

現在Appleが取り組んでいるテーマについて、ARによって解決できることはたくさんある。それだけでも、Appleが注力する分野として説得力のある存在であると言えるのではないだろうか。

松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura