シャープの信頼を支えるビジネス
シャープの第1号複写機が発売されたのは1972年だ。今年はちょうど45年目を迎えることになる。
「複写機は、化学、光学、メカ技術の刷り合わせによって生まれる製品。そのため、海外生産や水平分業が起きず、値崩れがしにくいという傾向がある。また、顧客のなかに入ってきっちりとサービスを行うというビジネスである。顧客との接点を大切にするのが複写機事業の根幹。長年の信頼がないと成り立たないビジネスである」と語る。
中山専務は、ビジネスソリューションのビジネスは、商材も大切だが、それと同じぐらいに大切なのは、商材を通じて顧客とつながっていける会社と会社の関係だとする。
「シャープに頼んでよかったといってもらえる信頼の繰り返しがいまにつながっている」と続ける。
シャープの複写機の累計出荷台数は約1800万台。オフィスでの利用のほか、コンビニエンスストアのコピーサービスとして利用されるケースも多い。実際、ローソン、ファミリーマート、サークルKサンクスなどに導入されており、この分野における市場シェアは約6割に達すると推測される。
「シャープのブランドイメージは、液晶であったり、家電であったりというのは確かだが、信頼のブランドイメージは、BtoBから生まれる。信頼度、人間関係の強さ、仕事の正確性、安心できるサービス体制などによって作り上げていくものである。地味で、地道なビジネスであるが、シャープのブランドづくりに貢献しているという自負がある」と語る。
競争が激化する複写機市場での戦い方
ビジネスソリューション事業は、45年間、安定した利益を出し続けている事業である。
ビジネスソリューション事業の売上高は、2015年度実績で3551億円。そのうち、複写機の売上高は1330億円と4割近くを占める。ストック型のビジネスモデルは、シャープの収益基盤を高めることに貢献している。
だが、2016年度は、企業の設備投資の競争が激化。「一昨年、昨年に比べて、利益が取りにくい商談が増加した」(複写機メーカー幹部)というように、複写機メーカー各社が共通して利益を落としている。
これはシャープも同じだ。2016年度第3四半期累計でのビジネスソリューション事業の営業利益率は6.6%と、前年同期の9.1%から減少している。だが、それでも1540億円の収益を稼ぎ出しており、これは、「リーマンショックでも影響を受けなかった」(同社幹部)といわれた同社白物家電事業で構成する健康・環境システムの2070億円に次ぐ、優良事業だ。
戴社長になってから、シャープの社内評価の尺度は、いかに正確な計画を作って、その通りやれる実行力があるかどうかを評価する「確度」と、前期との比較だけでなく、絶えず改革をしていくチャレンジ精神をもって、事業に取り組んでいるかを評価する「改善度」だという。その点で、営業利益率が減少しているビジネスソリューションが置かれたいまの立場は厳しいと言わざるを得ない。
複写機市場における競争激化は当面続くとの見方もあるが、中山専務は、「市場の回復を待つのではなく、新たな商材の提案で、ビジネスソリューション全体での底上げを図っていく。これまで、100しか買ってくれなかった企業に、200の商材を提案し、トータルで収益性を高めていくことになる」と、打開策を練る。
実際、その一手はすでに現実的な動きになっている。
新たな商材を追加しトータル提案
ビジネスソリューション事業本部は、オフィスソリューション事業部、ビジュアルソリューション事業部、システムソリューション事業部、マニファクチュアリングシステム事業部の4つの事業部で構成される。それらの事業部を通じて、複写機を中心とした「スマートオフィス」、POSを中心とした「リテールソリューション」、デジタルサイネージの提案を核とした「サイネージソリューション」、ロボットによる搬送の自動化やセキュリティロボットなどの「新規事業」の4つの切り口から事業展開していくことになる。
「独自技術とサービスによりお客様の業務の生産性向上を実現するのがビジネスソリューション事業本部のミッション。そして、ビジネスを行うお客様にとって、なくてはならない価値を提供する事業体を目指すのがビジョンである」とし、「ここに、各ビジネスユニットを超えた製品・サービスとの連携により、One Sharpとしての複合提案を行っていく」とする。
複写機を軸にしながら、これまで、複写機を販売していたルートに新たな商材を加えた提案を行うことで、収益拡大につなげるというわけだ。
たとえば、スマートオフィス、リテールソリューション、サイネージソリューションの3つの領域に展開できるのが、映像ソリューション製品群の展開。シャープが得意とする液晶ディスプレイを生かした新たな商材提案が相次いでおり、これを横展開していくことになる。
複写機で実績を持つオフィス分野に向けては、電子黒板の「BIG PAD」を提案。先頃発表したPN-L401Cは、オフィスのミーティングコーナーや小さな会議室のテーブルに手軽に設置して利用できる40V型サイズで、「これまでの製品では、7人以上が入る会議室を対象に提案してきた製品。だが、それでは会議室の半分しかターゲットにできなかった。しかし、新製品では残り半分を占める6人以下の会議室を対象にした提案ができる。サッと集まって、パッと散るハドルミーティングにも最適化した製品」と新たな需要創出に期待する。
さらに、複写機をオフィスのハブとして、トータルのオフィスソリューションの展開を目指すことも視野に入れている。複写機同士の連携や、オフィス内の各種デバイスを結んで、クラウドを活用して情報共有。セキュリティソリューションを組み合わせた安全、安心で、効率的なオフィスソリューションの実現に取り組むという。