3つの理由
ひとつは、2016年8月の買収に伴い、シャープの社長に、鴻海グループのナンバー2である戴正呉氏を送り込んだことだ。
「シャープは解散せざるを得ない直前の状況まで落ち込んだ。その再建に、ナンバー2を送り込んできた。戴氏は、鴻海の社員がまだ200人体制のときから、創業者の郭台銘氏と二人三脚で企業を大きくし、120万人の会社に成長させた。液晶事業だけでなく、シャープ全体を再生させるという意気込みが感じられる」とする。
2つめは、中山専務を再雇用した点だ。実は、中山専務は、2015年11月に一度シャープを退社している。だが、退職した中山専務のもとを戴社長が直接訪れて、シャープに戻ることを打診したという。
中山専務は、1977年のシャープ入社以来、技術者として、複写機事業一筋の経歴を持つ。そして、役員になってからもビジネスソリューションを担当してきた経緯がある。複写機事業の継続を前提としなければ、中山専務にシャープに戻るような説得はしないと判断できよう。
戴社長は、2016年7月にシャープに戻った中山専務に、「ビジネスソリューション事業を、しっかりと継続させてほしい」と、要望したという。
「シャープのどれかの事業を柱にして大きく育てる、というのではなく、個々の事業を伸ばしていくという姿勢が、鴻海の考え方である」と中山専務は指摘する。
そして、3つめが、シャープは新体制になってから、複写機事業拡大に向けた手を積極的に打ち始めている点だ。2月上旬に発表したスイスの複写機販売会社「フリッツ・シューマッハー」の買収は、複写機の販路拡大に向けた一手となる。今後も、必要に応じてビジネスソリューション事業拡大に向けたM&Aがあるかもしれない。
原点回帰が大事
中山専務は、2016年8月に戴社長が開催した経営トップを召集した会議を振り返る。
これは、夏休みの最終日から3日間に渡って行われた会議だ。夏休み中に、戴社長自らがまとめた約80ページの資料を使って、経営方針とともに、自身の思いを語ったという。
「最初に語ったのが、創業者である早川徳次氏のスピリッツを思い出し、原点に帰ることの大切さだった。そして、シャープをグローバルブランドにするために、自分はシャープにやってきたと語った。鴻海のためにシャープをどうするのかではなく、シャープのためにどうするかということを考えていることを示した。台湾から来た65歳の社長の話を聞いて、この人だったら、再生に向けて一緒にやっていけると全員が同じ思いをもった」と述懐する。
2月中旬、シャープは、2016年度の連結業績見通しを上方修正した。
売上高は据え置いたものの、営業利益、経常利益、当期純損益をそれぞれ101億円ずつ修正。最終赤字は残るが、営業黒字および経常黒字を達成することになる。
「シャープは確実に元気になっている。ここできっちり無駄をそぎ落として、強固な事業体としていく。シャープは大丈夫なのか、という問いには、これからも安心してお付き合いをしてもらえる会社であると答えられる」と、中山専務は断言する。
だが、中山専務は、冗談を交えながら、こんなエピソードも語る。
「最初の会議に出たときに、大変なところに戻ってしまったと感じた。こりゃ、えらいおっちゃんだ。香港映画の登場人物を見ているような、鋭い目つきで、ビシビシと攻めてくる」
シャープ再生に向けた経営トップの厳しさを、多くの社員が目の当たりにしているようだ。