米国経済に溶け込む日本メーカー

こうした米国内の事情を踏まえ、また石破氏の人物評なども参考としながらトランプ次期大統領の戦略を想像すれば、米国内市場のみで十分に賄える事業という発想を、拡大してみればいいのではないだろうか。

事業家の経験を持ち、損得で物事を考える人物の視点で物事を考えてみたい。米国内の日本車の市場占有率は35%を超えている。米国ビッグ3を優遇するなら、これらを排除すればおのずと米国車が増えるという単純計算が成り立つ。だが、トヨタは米国内に9カ所の生産拠点(提携の富士重工業も含む)を持ち、日産は5カ所、ホンダは7カ所を保有する。それらの工場では、米国内における雇用を生み出している。さらに、研究開発やデザインセンター、あるいは販売店などでも雇用が生まれているはずだ。

2015年2月に累計生産50万台を達成したトヨタのミシシッピ工場。2011年10月の生産開始から約3年4カ月での50万台突破は、トヨタの米国工場で最も早いペースだったという(画像:トヨタ自動車)

このことは、今回の大統領選挙で勝敗を分ける一因となった、生活や仕事環境に対して不満を持つ白人労働者を支えているという側面がある。単に日本やメキシコからの輸入車が、米国市場を席巻しているわけではないという理解を取り付けることは大切だろう。

そうしたことを含め、トランプ氏との人的関係性をより深めることも重要と言えるのではないだろうか。世界で初めて、次期米国大統領となるトランプ氏と面談した安倍晋三首相の洞察もそこにあると考えられる。あるいは、ソフトバンクの孫正義氏もまた同様だ。そうした動きが、自動車産業からはまだ見えてこない。

100年近い歴史を自動車メーカー各社が積み上げることにより、重厚長大産業的になり、俊敏さを欠いている印象を国内自動車業界から感じずにはいられない。