トランプ氏を勝利に導いたのは

そうした米国で、今回の大統領選挙においては、得票数でヒラリー・クリントン氏が上回ったにもかかわらず、選挙人制度により、人口密度の低い州で勝つ方が有利になるという仕組みから、ドナルド・トランプ氏が勝利を収めた。そして、トランプ氏を勝利に導いたのは、白人労働者の生活や仕事環境への不満であったとされている。そこに的を当て、支持拡大を狙ったのがトランプ氏であったという。

トランプ支持にまわったのは、自動車産業など従来型の工業に根差した白人労働者たちであった。そのため、移民の排斥や、関税撤廃などによる国際的な自由な商取引の停止などといった象徴的な発言につながっていると考えられる。

それらがたとえ極端な表現であったとしても、冒頭に述べたように米国では、国内だけで生活できるという実感があるから言えることなのだ。

“Do it yourself”のお国柄

ところで米国内をドライブし、スーパーマーケットやショッピングモールなどに立ち寄ると、店内にエンジンのシリンダーブロックが売られているのを目にする機会がたびたびある。日本で、自動車のエンジンが店で売られているなどという場面に出くわしたことはなく驚くが、世界で4番目の広大な国土に3億人しか人が住まない米国では、自動車のエンジンさえ自分で直したり、乗せ換えたりしながら永く乗り続けることが、普通の生活感なのだ。

“Do it yourself”が自動車にまで及ぶ。まさに、自分の手の届く範囲で、衣食住から移動手段までを賄おうとするのが米国流だといえるだろう。それを国家水準まで広げてみれば、国内市場だけで食べていこうとする思考は自然に生まれるものなのである。

米国は今日、石油輸入国へ転落してはいるが、シェールオイルの採掘が盛んになるのもまた、自国内でエネルギーを賄おうとする気持ちが根底にあるはずだ。ほかにも、広大な土地に、風力発電の大規模なウィンドファームを建設し、電力の自給自足を行おうとするのも自然な流れである。

環境問題の視点とは別に、エンジンをモーターに切り替えても、それがより簡単に維持管理、整備や交換ができる仕組みであれば、電気自動車(EV)を選ぶという発想は十分に考えられることでもある。

米国では電気自動車「シボレー・ボルトEV」の出荷が始まっている(画像は米ゼネラル・モーターズより)

シェールガスにしろ、ウィンドファームにしろ、EVにしろ、そうした新規産業を興そうとベンチャー企業が現れるのは、単なる開拓者魂(フロンティアスピリット)だけでなく、米国には国内市場で十分に事業を確立でき、それを利用する国民生活があるからである。