5年前には年間65万台規模の自動車メーカーであった富士重工業(スバル)が、100万台規模へ手が届きそうな急成長ぶりである。2015年度の売上高は、4期前の実績と比べれば2倍以上となる3兆2,000億円を突破。その成長を担うのは、5年間で2倍に販売台数を伸ばした米国市場である。なぜスバルは米国で人気を拡大できたのだろうか。

2016年度の中間決算説明会(11月2日)に登壇したスバルの吉永泰之社長。米国での販売台数は、59カ月連続で前年同月比増加を達成したと同国での好調ぶりを報告した。今年度の米国における販売台数は、前年度比で約8万台の増加となる66万1,700台を予想する

人気の背景となる米国ならではの事情

米国の国土は、日本の約25倍も広い。

そして、中西部にはロッキー山脈が縦断し、コロラド州にあるその最高点、エルバート山は標高4,000mを超える。そのコロラド州では、パイクス・ピーク・ヒルクライムといって、標高2,800mのスタート地点から富士山より高い頂上まで、一気に1,400m以上の高低差を駈け登る自動車のタイムトライアルが、1916年から独立記念日の7月に毎年開かれている。

人口はというと、米国は3億人強で、日本は1億3,000万人を割っている。これらの結果、人口密度は平均で、米国が1平方キロメートルあたり0.3人、日本は同3人となり、米国に比べ1平方キロメートルあたり10倍の人が日本では密集して住んでいる計算になる。

スバルの話をするために、なぜこのような地理や人口の話をするのかというと、これが北米でのスバル販売好調の理由の一つと考えられるからだ。

広大な米国、自動車が走行するシーンも様々

米国本土では、それほど広い土地に、人はまばらに住んでいる。もちろん、都市部は人口が密集するが、米国の100万人都市というと9つしかなく、日本の11都市と比べて少ない。ニューヨークが800万人で東京の区部とほぼ同じだが、ロサンゼルスは380万人ほどで、あとの都市は多くが百数十万程度の規模でしかない。

最大のニューヨークも、マンハッタンを抜けて30分も移動すれば、郊外の高級住宅地となり、ゴルフ場の敷地の奥に高級住宅が並ぶといった閑静さが得られる。

一方の日本では、東京を抜けても東は97万人の千葉市、北へ行けば128万人のさいたま市、西へ向かえば370万人の横浜市というように、どちらへ行っても市街地の途切れることのない状態が続く。

それだけ広大な米国内での移動は、飛行機が主体だ。そして、空港までは自動車で行き、そこから飛行機で移動し、到着した町でレンタカーを借りて目的地へ向かう。その繰り返しである。遠出の足が飛行機主体とはいえ、その先は自動車しかほぼ移動手段はなく、公共交通機関といってもバスくらいだ。鉄道や地下鉄が整備されている町は、ほとんどない。

したがって、ある程度飛行機で移動したあとは自動車が頼りだ。しかも、広大な土地に、まばらにしか人が居ないほどの人口密度であるから、道路は縦横に整備されていても、道路脇は土漠や荒野が広がる。それは決して大げさな話ではない。