異常な「歩留まり」発生

FCDを用いる上で障壁となったのは、「巣」と呼ばれる気泡の発生だ。鋳物を作るには、まず溶けた鉄を「鋳型」と呼ばれる型に流し込む。鉄は外から徐々に固まっていくが、冷える際に体積が減る。FCDは、この「最後に固まる部分」に、非常に気泡ができやすい素材なのだ。

水沢鋳工所では、鉄に添加する素材や鋳型を研究することで、可能な限り巣を低減している。しかし内釜の複雑な形状と、巣を減らすための「押し油(注1)」の必要性などにより、鋳型から抜いてすぐの鋳物は、製造を開始した2011年の時点で20kgもあった(鋳込み重量)。

南部鉄器 極め羽釜の内釜は、製品時の重量が約1.8kg。つまり、実際に製品となるのは、鋳造されたモノの9%。なんと91%の素材は無駄になる(便宜上、無駄と書いたが、再利用している部分も多い)。「精度の高い良質な南部鉄器内釜」を作るためとはいえ、かなり贅沢な話だ。南部鉄器 極め羽釜シリーズが高価な理由がよくわかる。

注1:鋳型のなかで冷えて減った溶解鉄を補給するため、あえて作る余分なスペースのこと。巣は最後に固まったスペースにできやすいため、押し油スペースに溜めた溶解鉄を最後に凝固させることで、製品本体の巣の発生を減らす役割もある。押し油部分は、鋳型から外したあとにカットして除外する

1550℃前後に加熱した炉に鉄や添加剤を入れて、「湯」と呼ばれる溶解鉄を作っているところ

【動画】鉄のなかにマグネシウムやシリコンなどの材料を放り込む様子も見られた。現在は配合の研究を重ねて、従来より巣ができにくい湯が作れるようになっている。マグネシウムを添加してしばらくすると、湯が反応してフラッシュのように激しく光るのが幻想的だ
※音声が流れます、ご注意ください

湯を鋳型に流し込む「注湯」と呼ばれる作業。このひとつひとつが「南部鉄器 極め羽釜」の内釜となる

型から出した鋳鉄は、湯を注ぐ「湯口」や「押し油」などがあるために、釜以外の部品が付いた写真のような形。左が2011年、右が2015年のもの。2015年のほうが、余分なパーツの総量が減っているのが見てわかる

ただし、4年の研究と改良によって鋳型が進化し、2015年モデルの内釜は、当初よりも3.5kg少ない16.5kgの鋳込み重量で作れるようになった。「91%」の無駄が「89%」にまで低減されたのだ。今年の2016年モデルでは、さらに1%削減し、無駄は88%までに減った。

「素材から作れる製品の割合を『歩留まり率』といいますが、最新の極め羽釜の歩留まり率は12%です。一般的な鋳鉄製品の歩留まり率は60%前後なので、この5年で歩留まり率を3%アップさせたとはいえ、依然として異常な数字ともいえます。極め羽釜はそれだけ難しい製品ということでもあります」(及川氏)。

余分なパーツをゲートペッカーと呼ばれる油圧カッターでカットし、釜部分のパーツだけ分離する

カットされたパーツは、すべて汚れを落とすための「ブラスト」へと運ばれる。中央に釜のパーツ、前後にカットされた余分なパーツが積み上げられている。釜よりも前後の「余分パーツ」のほうが明らかに多い。余分なパーツは、釜と同じようにブラストで汚れを落とし、また溶解して再利用する