Appleは、秘密主義を貫く企業、というイメージが未だにつきまとっている。しかし、筆者は少し異なる味方をしている。正確に言えば、変化してきた、というべきだろうか。

上場企業であるため、四半期ごとの決算の情報はウェブサイトで明らかになる。売上高と純利益、地域ごとの収益、デバイスの販売台数や製品・サービスカテゴリごとの売上高といった数字が、AppleのIRページから誰でも手に入れることができる

こうした当たり前の情報開示の他には、メディア向けの新製品発表イベント開催や、イベントなしでのウェブサイトでの製品刷新や情報発信、メディアに対する取材のアレンジなどで対応してきた。公式には、ここまでが基本的な活動だった。

しかし、もう少し情報発信に積極的に取り組んでいる様子もうかがえる。「Newsroom」というページが整備され、写真とともに、頻繁な情報の更新が進んでいる。また役員やエンジニアがカンファレンスや他社のイベントに登壇する機会も増えてきた。加えて、Tim Cook CEOをはじめとする役員が、Twitterでの短い情報を出すこともある。

新設された「Newsroom

こうした活動の中で、最近Appleが出した数字について、触れていきたい。

Appleは7月26日に、第3四半期決算を発表した。事前の予測よりは上回っているが、売上高や利益、各デバイスの販売台数の減少トレンドは継続している。

売上高は432億6,000万ドル、純利益は77億9,600万ドルで、前年同期比に比べ、売上高-15%、純利益-27%と、減収減益。iPhoneの販売台数は4,040万台、iPadの販売台数は995万台という結果となった。

この中で注目しているのは、iPhoneとiPadでの異なる動きだ。

販売台数については、いずれも予測を上回ってはいるものの、前年同期比ではiPhoneが15%減、iPadが9%減となった。しかし、売上高で比較すると、iPhoneが23%減少しているのに対し、iPadは逆に7%の増加となった。

台数以上に売上が減っているiPhone、台数が減少していながら売上が増えたiPad、この数字を読み解く鍵は、デバイスの平均販売価格だ。つまり、iPhoneの1台あたりの販売単価は下がり、iPadは上がった、ということだ。より安いiPhoneが売れるようになり、より高いiPadが売れるようになった、ということである。

この変化は、2016年3月末に発売されたiPhone SEとiPad Pro 9.7インチの2つの新製品の影響が早速現れた、と見ることができる。

AppleはプラットホームとしてはAndroidの1/6程度の勢力だが、モバイル業界の大半の利益を1社で得ている、非常に高い付加価値の製品を販売してきた企業だ。

iPhone 6sシリーズでは200~250ドル程度の組み立て原価で、650ドルから950ドルという価格レンジのスマートフォンを販売してきた。つまり、値引き幅はまだまだあると言えよう。

多少の平均販売価格の減少を犠牲にしても、後述の理由で、iPhoneの販売台数の減少を食い止める戦略に転換しつつあり、今回がその効果が数字として出た、初めての決算となる。

他方、理想的な着地を見せつつあるのがiPadだ。

9.7インチのiPad Proのリリースは、iPadの平均販売価格を上昇させ、またPCからの代替や、プロフェッショナルのためのツールとして新しい需要喚起を行うことで、予測よりも下落幅を圧縮し、売上高をプラス転換させた。

Appleは9月に新型iPhoneを発売するとみられる。iPadほど新たな需要を喚起することは難しいが、より大容量、より大型のiPhoneに注目を集めていくことで、再び平均販売価格を上昇させる戦略にうって出るのではないか。