2007年頃のシャープは「アクオス」ブランドを前面に展開していた

では、日本の白物家電事業は、なぜ、海外企業に売却されるといった事態に陥ってしまったのだろうか。

それにはいくつかの理由があるが、最大の理由は、日本の家電メーカーが、国内市場へのこだわりがあまりにも強かったという点だろう。つまり、それが家電事業の成長を鈍化させ、成長戦略を邁進したグローバルカンパニーとの差になってしまったのだ。

日本の大手総合家電メーカーは、日立、パナソニック、東芝、三菱電機、シャープの5社。これらのメーカーは、すべて海外で白物家電事業を展開しており、国内集中でビジネスを展開してきたわけではない。東芝を例にすれば、同社の白物家電事業の約3割は海外ビジネスであり、中国、インドネシア、タイの生産拠点を活用しながら、アジア市場で事業を展開してきた。パナソニックもアジア市場に留まらず、欧州市場にも洗濯機、冷蔵庫などの製品を投入している。

だが、海外家電メーカーが、本当の意味でのグローバル戦略を軸として展開していたのに比べると、日本のメーカーは海外事業においても日本中心という姿勢は崩してこなかった。

各国の生活習慣を生かしたサムスン

例えばグローバルカンパニーの雄で韓国サムスン電子。地域専門家制度という独自の仕組みを導入し、これによって海外における家電事業のベースを一歩一歩地道に作り上げてきた経緯がある。

地域専門家制度とは、サムスンがターゲットとする国に人材を派遣。半年から1年間にわたって現地で生活を行い、その国の生活習慣や文化、トレンドなどを熟知する。この間、具体的な業績目標は設定されず、現地での生活は自由だ。だが、会社の業務とは関係のないところで自分の力で人脈を築き、文化を学ぶことを課せられる。

ここで目指しているのはその国に住む人と同じか、それ以上に文化やトレンドに精通している人材になることだ。そうした人材が自らの経験をもとに、その国に最適化した製品の企画、開発に携わり、それぞれの国に適したマーケティング戦略を立案する。まさに、その国に根づいた形での製品企画を行うことにつながっている。サムスンが白物家電の重点分野において、世界各国でトップシェアを獲得しているのも、こうした取り組みが見逃せない。

白物家電製品は、生活に密着した製品であり、主食や食べ物の嗜好、生活様式、気候や文化などによって、それぞれの国ごとに最適化した製品が求められる。欧米が靴を履いたまま生活するのに対して、日本は靴を脱いで生活するため、求められる掃除機の質は大きく異なる。中国では上着と下着を別々に洗濯することが常識であったり、東南アジアでは洗濯機に乾燥機能が求められなかったり、水は必ず煮沸してから冷蔵庫に大量のペットボトルを保存することが習慣になっている国があるといったように、各国ごとに日本とは異なる生活様式のなかで、家電製品が使われている。それぞれの国にあわせた製品開発は、必須だといえる分野だ。