朝川氏に、HDRコンテンツと従来の映像制作が異なる点を訊ねたところ、「画づくりの方法が変わること」が大きいとの答えが返ってきた。カメラで撮影した映像をポストプロダクション(撮影後の作業)の段階で色調調整(カラーグレーディング)する作業は、これまで映画制作の現場では当然のように行われていたが、テレビ放送用のビデオ素材ではあまり一般的ではなかったのだという。HDR以前のビデオ映像は、色再現の範囲がフィルムよりも格段に狭いことから、あまり気にする必要がなかったためだ。
ところがHDRの映像技術が台頭してきたことにより、テレビ向けの映像コンテンツでも再現できる色範囲が大幅に広がり、これからは撮影後の色調整も大事な作業の一つになる。「こうしたノウハウを、今後4K HDRコンテンツの制作に乗り出す各企業に向けて丁寧に伝えていくことが私たちの務め」だと朝川氏は語る。
4K HDRの技術方式には、最も広く採用されているUltra HD Blu-rayの「HDR10」のほかに、米Dolby Laboratoriesが開発した「Dolby Vision」(ドルビービジョン)がある。HDR10とDolby Visionはそれぞれ対応機器やコンテンツが異なり、この夏に国内でも初めてDolby Vision対応テレビがLGエレクトロニクスから発売された。「ドルビービジョンのHDR映像は、HDR10の映像に比べて金属の自然な光沢感と艶が再現できるところが特徴」であると、技術本部 技術開発部の山本裕氏は語る。
その醍醐味を味わうためには、テレビだけでなく映像コンテンツ側もDolby Visionに対応していることが必要になる。ひかりTVでは、LGのテレビがソフトウェア更新によりDolby Visionに対応した後すぐに、Dolby Vision版の4K HDRコンテンツを提供できるよう準備を進めているという。現在提供中のHDR10版のコンテンツと、それぞれの特徴を見比べてみるのも面白そうだ。
HDRという単語自体は、おそらく多くの方々にとって耳馴染みがないと思われるが、今年の年末にかけてテレビやプロジェクターなど多くのディスプレイ機器がこぞって対応をうたう重要なキーワードになるはずだ。今回、ひかりTVの技術者たちが本気でHDRに取り組む姿勢を目の当たりにして、その将来性が非常に有望であるという感触が得られた。実際にHDRの映像を従来の映像と見比べてみれば、多くの方々もその違いがすぐにわかると思う。ぜひ店頭でのデモンストレーションやイベント上映の機会なども活用しながら、その違いに注目してみてほしい。