GoogleがVRに力を入れる理由

Google I/Oで2つ目に注目したのが、GoogleによるVRへの取り組みだ。筆者は、世間が考えているほどVRが革新を起こすとは思っていないが、Googleがモバイルプラットホームとして、VRへの取り組みを強めることは、興味深いと考えている。

Googleが基調講演で発表したのは。AndroidプラットホームにおけるVR環境を規定する「Daydream」だ。Daydreamは、VRアプリやVRコンテンツを楽しむための、Androidスマートフォンに関する必要な性能の規定、VRゴーグルや、VR使用時のリモコンの仕様といった、追加ハードウェアに関するプロトタイプを示した。これにより、AndroidによるVR体験を、より具体的に開発していくための環境が整ってきた、と考えることができる。

Googleはこれまで、スマートフォンでVRを楽しむため、ダンボールでできたゴーグルの製作に取り組んできた。両目の視野一杯にスマートフォンのディスプレイの表示が行き渡り、ピントが合うようにするためのレンズを内蔵し、自分のスマートフォンをダンボールに挟み込んで、VR体験を手軽に行えるようにする仕組みだ。

加えて、Samsungは、Facebook傘下となったOculusと組んで、「GALAXY Sシリーズ」のスマートフォンを装着するタイプの、もう少ししっかりとしたゴーグル「Gear VR」をすでに発売しており、スマートフォンを活用したVR体験の最も安定した環境になっている。

Googleは、こうした環境を一歩進めるため、DaydreamによってAndroid NにVRモードを導入し、自社コンテンツについても、VR対応を行うことで、初期の体験が退屈なものにならないようにしようとしている。

例えば、Googleストリートビューは、その場所に立って見渡せる360度写真を楽しめる。またYouTubeアプリをアップデートし、VRビデオの配信環境としての役割を強めた。その他にも、Google PlayビデオやGoogleフォトも、Daydreamで楽しめるサービスとした。アプリ開発企業では、Wall Street JournalやCNNなどのニュース、NetflixやHuluなどのビデオストリーミングサービス、IMAX、MLB.com、そしてEAなどのゲーム会社がパートナーに名を連ねている。

YouTube、GoogleフォトなどGoogleのサービスもVRへ対応

Googleは、Daydreamを、2016年秋に立ち上げる考えだ。気になるのは、Google自身が、自社で、VRに関するハードウェアを用意するかどうかだ。スライドでは、ゴーグルとリモコンのスケッチが示されたが、最近ハードウェアに力を入れているGoogleからすれば、VR向けのデバイスを発売することに、違和感は感じないだろう。

GoogleはVRゴーグルを用意するか

Googleにとって、VRをモバイルプラットホームに深く採用することは、モバイル環境における表現力を飛躍的に高め、また新たな表現方法に移行しても、広告のビジネスモデルを導入できるようにする「準備」をしているように感じる。

YouTubeがGoogleに買収されてから現在に至るまでを振り返ると、データとして非常に扱いにくかったビデオの配信プラットホームとして世界一の座を獲得し、広告ビジネスによる収益化を行ってきた。VRに対しても、同じことを起こすと考えれば、VR視聴環境の整備を率先して行うことは、Googleにとって、むしろ自然な流れだと言える。