生活者の視点からは、好評を博するかも知れない、iOS 9.3のナイトシフトモード。しかし頭を抱えそうなのは、アプリ開発者やコンテンツ制作者だ。彼らが一所懸命に色味を調整したとしても、iPhoneが勝手に変更してしまい、意図と異なる色味で観る可能性が高まるからだ。

iPhoneやiPadには、カラーコレクションの機能がないが、作っているメーカーがApple1社であり、多少の個体差・部品差はあるが、基本的には手元のデバイスに合わせてデザインすれば、他のデバイスでも同じように見える。

しかしナイトシフトモードは、日没後、より暖かみのある色に調整されて観ることになる。ちょっとした違いじゃないか、と思われる方もいるかも知れないが、もしあなたが投稿した写真で、色味に意図を持たせていたとしたらどうだろう。

身近な例で例えるなら、Instagramで、より青い空を強調しようと青みがかったフィルターをかけて写真を投稿したとする。しかし日没後にその写真を観る人は、黄色みが増し、青を強調する意図は失われるだろう。また、モダンな造型物をモノトーンでアップしても、青の成分が減少すれば、セピア調でレトロ感を強調した写真を見ることになるはずだ。 料理の写真についても、ブリッとした白子の写真を撮って、「真っ白でキレイ」というキャプションをつけたのに、それが大幅に黄色みを帯びていたら、写真とキャプションはちぐはぐになってしまうことになる。意外と影響は小さくないのだ。

まだベータ版の機能なので、今後改善される可能性はある。画面から受けるブルーライトをおさえるという目的には反することになるのを承知の上で、例えば写真やビデオといったコンテンツだけは、ナイトシフトモードを無効化する、といった処理ができると良いかもしれない。

また、こちらも正式に実装されてからの話ではあるが、日没後は暖かみのある光でスマホを使うため、炎上が起きにくくなる、といった変化が観測できても面白いのではなかろうか。

松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura