今後新興国への進出を考える際、クレジットカードどころか銀行口座も普及していない地域がある。カード会社や米国の銀行が、こういった国に対してAppleとともに進出できるとすれば、これまでの国際進出とは異なる、とても魅力的な話になるはずだ。
同時に、「Apple」という通貨が登場する未来も考えられる。現在でもAppleの製品価格には、米ドルを中心とした独自の為替レートが敷かれており、変動によって各国での価格改訂も行われている。また、App Storeでは、価格の枠組みをAppleが決めており、これが1通貨単位なっても分かりやすい。
必ずしも、フルサービスの金融に参入する必要はないが、App Storeでアプリ内決済を行う際に利用できるお金の単位となれば、カードがない国でのアプリ開発者のビジネス環境を飛躍的に変化させる可能性がある。これは、アプリ開発者が世界中で、アプリに閉じないビジネスを展開する「手段」を手に入れることでもある。
それはかつてPayPalが、米国におけるインターネット上の個人間金融を変革したように、ネットに限らず実社会における金融を世界的に変えてしまうかもしれない。
松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura