実は狙いすましたクオリティの「AAC 256kbps」
Apple Musicにおけるストリーミング配信のビットレートは、公式には発表されていない。しかし、iTunes Storeでダウンロード販売されている楽曲、iTunes Matchで変換される楽曲はAAC 256kbpsであり、Apple Musicも同じである可能性が高い。
このAAC 256kbpsというフォーマットは、個人的には"塩梅"だと考えている。44.1kHz/16bitのPCM音源をAACで非可逆圧縮しているだけに(しかもローパスフィルタで高域成分は大胆にカット)、注意深く聴けばCDやハイレゾ音源、特にビット深度が24/32bitのものとの音質差は明らかだが、Apple Musicというサービスの特性を考えれば、むやみにデータサイズを大きくするものではない。
それに、AACは256kbpsあたりを境にして、ビットレートを上げたときの音質改善効果が小さくなる。同じAACを採用する競合サービスには、ビットレートが320kbpsのものがあるが(ex. レコチョクBest、KKBox)、ポピュラー音楽主体の気軽な聴きかたでは音質差として明確に現れるか疑問だ。オーケストラのようにダイナミックレンジの広いソースは、データ量がけた違いに多いハイレゾのほうが高い満足を得られるのだが、Apple がその領域を目指しているとは思えない。彼らの意図は、2014年のBeats買収劇からも明らかだろう。
AAC 256kbpsというフォーマットは、"音の出口"も意識しているのではないだろうか。オーディオ機器として急速に存在感を高めているBluetoothスピーカーは、Hi-Fiオーディオ用プロファイル(A2DP)の帯域幅が500kbps以下であり、必須コーデックのSBCにしか対応しない製品も多いことから、AAC 256kbpsでも音の情報量として不足はない。
むしろ、Apple Musicの「256kbps」という表面上の数値には囚われないほうがいい。Appleは2年ほど前から、iTunes Store専用にマスタリングされた楽曲「Mastered for iTunes」の取り扱いを増やしており、非可逆圧縮とはいえ音質的なロスを減らすための取り組みとして評価できる。この「Mastered for iTunes」の音源がApple Musicにそのまま使われるかどうかのコメントはないが、敢えて同一曲の低音質版ソースを用意するとも考えにくく、期待していいのではないだろうか。