リコメンド機能に期待
これまで自分が聴いてきた楽曲/ミュージシャンとの"出会い"は、自分で見つけ出すというよりは雑誌やラジオで仕入れた情報、あるいは好みが似ている友人からの推薦だったように思う。昔話で恐縮だが、80年代から90年代にかけて隆盛を極めた隔週発売のFM情報誌 -- 新譜情報やミュージシャンのインタビュー記事、最新オーディオ機器まで網羅されていた -- は、プログレやハードロックを好む中学生にとって貴重な情報源だった。その記事を頼りに、よさげなアルバムを買ったり(友人を煽って)買わせたりしたものだ。
他のストリーミングサービスになくApple Musicにあるものは、やはり「リコメンド機能」だろう。iOS 9のミュージックアプリには「For You」(邦訳は不明)というアイコンがあり、これをタップすると"推し曲"が表示される。ユーザーの好きな(ライブラリにある)アーティストと購入済の楽曲、これまでの再生履歴をベースに、専門チームがあらゆる音楽ジャンルにつくのだそうだ。
これまでのiTunes/ミュージックアプリにも「Genius」という一種のリコメンド機能が提供されてきたが、選曲に機械的/統計的な傾向が否めず、積極的に利用されてこなかった。
対応楽曲数/アーティスト数が増えれば増えるほど、自分好みの音楽と効率的に出会うことは難しくなる。FM情報誌の時代にはなかった、双方向で情報をやり取りできるインターネット掲示板があるじゃないか、という声が聞こえてきそうだが、掲示板は特定アーティストや狭いジャンルを深く掘り下げることには適していても、意外な発見は少ないように思う。だからこそ、人力というスパイスがくわわったリコメンド機能に期待したいのだ。
リコメンド機能の裏付けとなる「曲数」
Apple Musicの対応曲数が3,000万という報道があるが、それは米国など海外の話。ここ日本ではそれ以下となる可能性があり、実際Apple公式サイトのApple Musicのページには「数百万の曲にアクセスできるようにして」という日本語の記述がある(米国サイトの「millions of songs」を直訳しただけかもしれないが)。
曲数がサービスのすべてではないものの、重要な指標であることは事実。国内のサービサーだけを見てもKKBOXは1,000万曲以上あり、サービス終了となったMusic Unlimitedはピーク時に2,500万曲を超えていた。Apple Musicがその水準を下回れば、ストリーミングサービスとしての訴求効果がそれだけ薄れることは否定しようがない。
仮にApple Musicが数百万曲としても、内訳が気になる。邦人アーティストの版権の多くは日本のレコード会社が抱えていることもあり、契約の進捗次第では数百万曲の大半が海外アーティストという可能性があるからだ。リコメンド機能の分母は取り扱い曲数であり、薦める曲を選ぼうにも候補が少なければ精度は鈍る。
実際にはすべての曲を聴かない/聴けないとしても、リコメンド機能を考えると、取り扱い曲数はApple Musicの"基礎体力"を示す数値であり、軽視できない。人気アーティストの曲が収録されているかどうかという視点よりも、曲数に裏付けされた網羅性が重要と思うのだ。