一連の政策がうまくいくと……
海外では、MVNOが独自のSIMを発行して独自の電話番号を割り当てられ、海外ローミングなども可能になっています。ヨーロッパには、多数のMVNOがあり、複数の国で事業を展開している事業者も少なくありません。規制緩和は、MNOだけでなく、MVNOのローミングや海外進出をも可能にするものなのです。かならずしもHLR/HSS解放だけが条件ではありませんが、少なくとも阻害要因の1つを取り除くことになります。
アメリカでも、ヨーロッパでもMVNOは、MNOと対等にビジネスしており、EU圏では、MVNOのほうが存在感がある国もあります。そのためにMNOであっても、安価なプランを提供するところも少なくありません。多くの国では、日本のように契約して利用するようなユーザーはごくわずかで、大半のユーザーは、固定した期間の契約のない「プリペイド」で利用しており、日本のMNOは、この点では非常に恵まれた状況にあります。なのに海外に比べると通信料金が高止まりしている背景には、端末販売などの問題があると、総務省は考えているのではないかと思われます。
日本では、すぐサービスの質だとか、高品質を求める国民性みたいな話で、議論を終了させるような場合がありますが、事業者を除けば、通信料金が安価になることを歓迎しない人はいません。海外でもたしかに品質に問題を感じることもありますが、必ずしも日本より低いというわけでもありません。
かつて、筆者は、ロンドンでGSMの端末をプリペイドで購入し、自宅に電話をかけたことがあります。当時の自宅は、ISDN回線で音質は悪くなかったのですが、遙か地球の反対側に近いロンドンから携帯電話で自宅に電話しても、ISDN回線同士の市内通話のようにくっきりとした音質でした。当時のPDCのように聞き取りにくいこともなく、すぐ隣の部屋とインターフォンで通話しているような明瞭さで会話することができ、いまでもはっきりと記憶しています。
日本のサービスが世界一というのもまた、1つの幻想でしかありません。筆者は、別に総務省の肩を持つつもりはありませんが、こうして考えるに、SIMロック解除の義務化とその一連の政策は、うまくいけば、通信料金の低価格化や安価なSIMフリー端末の普及などで利用者の利益になると思われます。もっとも、うまく行けばです。
今回、ルール改定があったように、最初のSIMロック解除の施策については、うまくいきませんでした。しかし、MVNO施策はある程度の効果を上げています。さて、今回の施策はうまくいくでしょうか。