無線LANの歴史を振り返る

ここでレッカー氏が言う「第5世代無線LAN」とはなんだろうか。まずは無線LANの歴史を振り返ってみよう。

1998年に「IEEE802.11」として標準化された無線LANは、無線局免許を必要としない2.4GHz帯の周波数を利用するネットワークインターフェース規格だ。802.11は通信速度が2Mbps程度とかなり低速なうえに機器の価格も高く、到底一般的ではなかった。

コンシューマ向けに無線LANを広めたのは、1999年7月に登場したアップルのiBookとAirMac(米国ではAirPort)の登場からだ。当時まだ正式に策定されていなかったIEEE802.11bを採用し、11Mbpsと、有線のEthernet(10BASE)と同等レベルの速度を実現。アクセスポイントが299ドル、無線カードが99ドルという低価格が市場にインパクトを与えた。

世界初のコンシューマ向け無線LAN製品ともいえる「AirMac」。UFOのようなユニークなデザインと相まってMacユーザーの間で高い人気を集めた

これに刺激される形で各社も積極的に無線LAN製品を投入。相互互換性を確保するための業界団体「Wi-Fi Alliance」が登場することで、どこの会社のカードとアクセスポイントの組み合わせでも最低限の接続性が確保されることになり、普及期を迎えた。当時、米インテルやプロキシムも「HomeRF」という規格の普及を図っていたが、結局Wi-Fiに押されて普及することなく消滅してしまった。

その後、2003年に策定されたIEEE802.11gでは11bとの後方互換性を確保しながら54Mbpsの転送速度をサポート。やはり無線基地局免許が不要な5GHz帯を使う「IEEE802.11a」規格も先行して登場していたが、すでに普及していた11bとの互換性がないことに加え、5.2GHz帯が屋外での利用を制限されること、さらに無線LANの普及に功績のあったアップルが11aではなく11gを採用したといったこともあり、あまり普及しなかった(現在は屋外利用も可能)。

2009年には2.4GHz帯と5GHz帯を統合し、最大転送速度600Mbps超、実効速度で100Mbps超を目指す「IEEE802.11n」規格が策定。11g時代にも独自にサポートする製品があった「MIMO」や「チャネルボンディング」といった技術を取り入れることで通信速度の高速化や通信の安定化を図った。

ただし11n対応製品は必ずしもフルスペックである必要はなく、2.4GHz帯のみの対応だったり、MIMO非対応でも11n対応を謳えることから、すべての製品が期待通りの速度を出せるとは限らないという状況になった。現在でも、たとえば2.4GHz帯と5GHz帯の速度を足して450Mbpsといった表記の製品があり、ユーザーに混乱を招いている状況だ。

そして実効でGbps級の通信速度を実現するための規格として2012年に策定されたのが、本稿で扱う「IEEE802.11ac」だ。802.11を第1世代とすると、第2世代:11b、第3世代:11a/g、第4世代:11nに続く第5世代の無線LAN技術となる。