こうした数々のエピソードからも、米Microsoftが、日本の市場性を強く認識していることが見て取れる。今回の新Officeの取り組みは、日本マイクロソフトの収益性を拡大すること、そして、PCメーカーや量販店にとっても、収益を確保しやすい仕組みである点も見逃せない。もともと日本マイクロソフトにとって、Officeは日本市場における売上高を拡大するために不可欠な製品だ。
それは売り上げ計上の仕組みが違うことからも見て取れる。Windowsの場合は、一度、米Microsoftに売り上げが計上されたのちに、日本マイクロソフトにその収益の一部が売上高として計上される。
これ対して、日本で出荷された(売れた)Officeの場合は、最初に日本マイクロソフトに売上高が計上され、そこから米Microsoftに収益が支払われる仕組みだ。その分、嵩(かさ)が大きく計上されることになり、日本マイクロソフトにとって重要なビジネスである。
また、今回の新Officeでは、従来Officeと比べても、PCメーカーとの取引条件は同じといわれており、PCメーカーのOffice調達コストには変更がない。むしろ、PCメーカーにとってみれば、これまでに比べて価値の高いOfficeを同等のコストで調達でき、PCの魅力を引き上げることにつなげられると考えていいかもしれない。さらに、Office 365サービスの存在によって、同サービスが1年後に切れた場合には、新たな販売機会(Office 365サービスの継続)が発生。これまでにない収益が生まれることになる。
Office Premiumを通じたOffice 365サービス利用の場合、使用しているPCから、PCメーカーのサイトを通じて、Office 365サービス継続版の購入が可能だ。それらはPCメーカーの収益になる。そして、量販店の店頭でもOffice 365サービスの販売を行っており、これは量販店の収益拡大につながるというわけだ。新たなOfficeは、新たな売上拡大の要素を持った製品だともいえる。
こうしてみると、新たなOfficeは、ライセンス体系にとどまらず、これまでのOfficeとは大きく異なる仕組みとなっていることが分かるだろう。PCの価値を引き上げるのはもちろん、マルチデバイス化によるスマホやタブレットによる利用範囲の拡大といったメリットもユーザーに提供する。そして、PC業界にとってもプラスとなる要素を持ったものだ。新たなOfficeは、「パソコンを変える」ことができる製品というのは、そうした意味からも的を射ているといえよう。