――監督が参加されたのはおよそ3年前ということですが、実際の制作作業に入ったのはいつ頃ですか?
水島監督「1年半か2年くらい前だったと思います。絵コンテはもっと前から進めていましたが、3Dとして作り始めたのはそのくらいですね。まずは最初の3カ月で4分のPVを作り、それにどのくらいの労力がかかるか、どのくらいのスピード感でできるか、それを元に検討して、残り1,200カットくらいをそのフォーマットで作ろうって決断しました。最初のPVほどクオリティを上げることはできませんよっていう話をされたんですけど、世の中にPVとして出すのだから、これ以下はありえないでしょうって断言して作り始めた感じです」
――最初のPVというものはやはり力が入ってますからね
水島監督「でも、もっと間引けるなっていう表現があって、それをやればもっとメリハリが効いて、さらに良くなるはずだって、その段階から確信していたので、あとはそれを徹底したというところですね」
――それを踏まえて、1年半という制作期間は長いと思いましたか、短いと思いましたか?
水島監督「最初は正直、短いと思っていたんですけど、ものすごく現場の密度やスピード感が高かった。僕自身も、当初は週3回、決められた時間に入ってほしいって言われたんですけど、暇があれば、呼ばれなくても行くようにしていたんですよ。それによってコミュニケーションがうまくいって、チェックするものが溜まるということがなくなり、スムーズに物事が回るようになった。いったん自信を持てば、作業も早く進む。そういう意味では、すごく充実した現場でした。作画アニメと違って、工程を省いたり、ノリで大きくカットの上がり時間が変わってくるようなことはない。ある意味、工場みたいなものなので、時間が読めるんですよ。その分、いつもより全然ヒマができて、ほかの細かい仕事をチョコチョコとつまみ食いしながらやってました(笑)」
――CGのほうが時間が決まる分、スケジュールが読みやすいわけですね
水島監督「セルアニメは職人芸的なところがあるのと、関わっている人間がフリーランスなことが多いので、時間的な読みがものすごく難しい。それに監督とか演出は付き合う形になるんですけど、上がってくる時間やそれをチェックする時間もまちまちになってしまう。でも今回は、ひとつの会社がまとめて作業をしているという強みもあり、行けばチェックするものが回ってくるという体制。週3回というのはそういうことかと。それを週4回にしたり、現場にいる時間を長くすると、ちょっとした直しだったら、もっと効率的に進めることができるわけですよ。そういう意味では、これが今回の作品においては一番の変化だったかもしれません。3Dの現場では、あまりそういうことをしないそうなので」
――今回、虚淵さんと組んでみた感想はいかがですか?
水島監督「彼とは以前からの知り合いだったし、昨今のライターの中では骨のある本を書く人だと思っていたので、一度は一緒にやってみたいねって、本人とも話をしていたんですよ。そうしたら、あっという間に話が来た。最初、虚淵くんが推薦してくれたんだと思っていたんですけど、全然違うところから話が出たみたいで(笑)。虚淵君も僕の名前が出て喜んでくれたので良かったなと思います。彼の脚本はやりがいのあるので、引き受けたのはいいけど、実際に脚本を読んだとき、どうしようかなって悩みました。そのときになってはじめて、『まどか☆マギカ』以外の虚淵作品を観て、研究したりもしました。とにかく、彼の脚本はセリフの量がすごく多い。だから、会話をどのように演出するかがキモになるというのは最初からわかっていたんですよ。それを他の作品だとどのように処理しているか、成功例、失敗例を自分なりに評価して、それでは自分の作品なら何ができるかというのをすごく考えました」
――実際に一緒に仕事をしてみて意外だったところはありましたか?
水島監督「普段会っているときの印象とまったく変わらなかったです。言っていることも変わらないし、上がってくる脚本も非常に彼らしかった。なので今回は、虚淵君の脚本をいかに映像としてきっちり伝えることができるか、それが自分にとって一番の仕事だと思って取り組みました。すごく歯ごたえがあって楽しかったです(笑)」