――やはり時間的な問題が一番大きいですか?

水島監督「100%自分の思う通りには絶対にならないですからね。作業のやり直しという工程は必ず出てくるわけですが、最低でも8割、9割の希望値にまで持っていくためには、やり直すにしても、その後の作業を考えて判断しなければならないし、自分がそれまでに何を用意できるかにかかってくるんですよ。だから、どのタイミングまでに何を決めれば、後の作業がスムーズになるか、監督としての方針を示さなければならない。ですが、完成形が見えてきて、初めて判断できることでもあるので難しいところです。これがテレビシリーズであれば、話数が進む毎にハードルを上げていくこともできるんです。それまでの反省を踏まえて、表現や物語を積み上げることができる」

――映画は一本勝負なので、それはできないですね

水島監督「そうなんですよ。だから、どの段階でどこまで残りの作業を見越してOKが出せるか。どこまで遡って直すという判断を下しても大丈夫か。そのあたりは、過去に3作の映画を作った経験のおかげで、判断をミスすることはなかったです」

――過去の経験が生きたわけですね

水島監督「ただ、それがいつもジレンマなんですよ。作業が進んでいく中で、パーツが揃ってくると、これはもっとこうしたほうがいいなって思うんですけど、その段階で手をつけようとすると、ほかの作業を止めなきゃいけない場合がある。映画としては絶対にそのほうが良いと思ってはいても、諦めなければいけないタイミングがあったりするので、その見極めが重要になってくるんですよ。そこはやはり過去の経験によって、このくらいまでやっておけば、仮に直しになったとしても最小限で抑えられるみたいな見極めはできたと思います。色味の変換だったり、影のコントロールだったり、ケアレスミスも含めて、どうしてもミスは出てきてしまう。だから、それを最小限に抑え、直せない状態にしないように、後ろのスケジュールを指折り数えながら考えていました」

――どうしてもスケジュールの問題は出てきますよね

水島監督「今回の作品は、技術の向上がプロジェクトのひとつの目的でもあったので、そのあたりも含めて、さまざまなトライアルにもなっていたと思います。制作工程に十分な時間を取るというのではなく、逆にそのスケジュールの中でどれだけのことができるか。それを演出的なわがままではなく、より良いもの目指すために機能させることに気を遣っていた感じです」

――ちなみに修正作業というのは、CGだとまた違ってきたりするのでしょうか?

水島監督「どこまで進めてしまうと後戻りする作業に莫大な時間がかかるのかという点では、セルアニメよりもCGのほうがシビアです。単純に物理的なレンダリングの時間は縮められないですから。サーバーを大きくすれば何とかできることはできるんですけど、すごくお金が掛かってしまう。あと、解像度などで支障が出てしまったとき、レートをあげてもう一度レンダリングをすればいいというだけでなく、場合によってはモデルから直さなければいけないこともある。そのあたりの判断も大事で、数値的にいうと問題あるけど、何とかそのままいける場合もあれば、一から作り直さないと使い物にならない場合もある」

――最初のモデルから作り直すと時間が掛かりますね

水島監督「時間ももちろんですが、そのモデルはそのサイズでしか予算的な問題で作れないという場合もあったりします。なので、レンズの選択や空間演出で破綻しないように撮っていくんですけど、そうすると全然関係ないところで破綻しているのを見つけてしまったり……。やはり100%コントロールするのは難しいですね。今後はそのあたりをチェックするフローもできるかもしれませんが、やはり初めてのことが多い現場でしたから。ただ、そういった技術的なトライアルは面白いんですよ。演出によって、技術的なところを誤魔化すという作業もあったのですが、それをすることで3Dアニメーターがノウハウを得ていく。被写界深度を浅くし、ピントを手前に持って来て後方の情報をボカすと、手前のキャラの主張が立つんです。そうすると後方のキャラクターはボケてもいいから、ローモデルでも大丈夫になる……。とか。どうやっても誤魔化せなかったり、誤魔化そうとするとシーン丸ごと配置を換えなければならなかったり、そういった場合は結局モデルから直すことになるんですけど、それがどのタイミングまでなら大丈夫か、そのあたりの検証も行いながら作業を進めていった感じですね」

――そのあたりが監督の判断に委ねられる部分ですね

水島監督「ただ、CGの場合は、この工程にはこれだけの時間が必要ですってことを具体的に言われるので、ある意味、わかりやすくもあるんですよ。なので、こちらもそれにあわせてどうチェックしていくかということをすごく考えていました」