無意識に訴えかけるリアル
映画制作の最終行程にあたる合成(コンポジット)と呼ばれる作業では、デルのワークステーション「Precision T7600」がメインで使われた。担当したのは、ショットチームと呼ばれるチームだ。キャラクターをレンダリングしたものや、ライティングした背景、エフェクトなどが集約されて、映画館で上映される映像が完成する。映画の制作行程の中でも最も映像処理に負荷のかかるところである。
飛行シーンのような複雑な映像は、レンダリングを実行してから、すべてのジョブが完了するのに1週間かかることもある。満足できなければ当然リテイクを行わなければならない。その際1つでも修正にもれがあると、さらに一週間かかってしまう。そのため、確認をするのも必死だ。
しかしそうした苦労も報われた。「今回はいろいろなものが本当に細かくできた。遠くのほうまで街を見渡したり、髪の毛や服のシワ、肌の質感など、やりたかったことがたくさん実現できたので、けっこう満足しています」と八木氏。
髪の毛や服のシワについては、同氏が初監督を努めた長編3DCGアニメーション映画『friends もののけ島のナキ』(2011年公開)で十分に実現できなかったこともあり、特に思い入れがあるという。今回、髪の毛には漫画的な表現を残しつつも、服のシワは丁寧に再現している。いずれも物理的なシミュレートすることで自然な表現を心がけたという。
「2Dでもアニメでもない、まったく新しい『ドラえもん』を作るという試みで始まったものですから、きちんとやらないと意味がないだろうと考えました。例えばタケコプターで飛んでいるシーンでは、服がはためいてないと飛行している気持ち良さが出ないと思うんですよね。でも、服がバタバタしているね、とは思ってほしくなかった。そこはお客さんに気づかれないレベルでやるべきことなんです。服が揺れるというのは、一般の人には自然なことだから、気づかれないほうがよりリアルに感じてもらえる。僕らはかっこいいシワ入ってるねとか喜びながら作っていましたけど(笑)」と八木氏は語る。
作り手の熱い思いと強いこだわりにより、これまで誰も見たことがないリアルな『ドラえもん』が完成した。進化したハードウェアの支えも抜きにはできない。「(前作の)ナキの環境に比べて、できることが感覚的に10倍くらい増えた」と八木氏は語る。
『STAND BY ME ドラえもん』は8月8日公開。ぜひ劇場に足を運んで、見る人の記憶や無意識にまで訴える3DCGを自分の目で確かめてほしい。