美化された記憶を呼び起こすキャラクター作り

美化された記憶に合った形での3D化を目指したと語る花房氏

おそらく『ドラえもん』の3DCG化で誰もが気になったのが、キャラクターのビジュアルだろう。おなじみの2Dのキャラクターをいかに3Dにするか、という点に興味を持つはず。

ところが今回の『ドラえもん』は、原作のキャラクターをそのまま3D化しているわけではない。

「子どものころに観たものを、リバイバルのような形で大人になってから観るときは、記憶が美化されていると思うんですよね。「ドラえもん」が本当にいたらといういうことを表現するには、リアルなところから詰めていかないとできないんじゃないかと思いました」と花房氏。

リアルさを表現するにあたって、質感の表現にも新しい技法が取り入れられている。「サブサーフェイス・スキャタリング」と呼ばれる、光が皮膚などの表面を透過して、内側が透けて見える様子を再現する技法が、ひみつ道具や、キャラクターたちの肌にふんだんに使われている。未来のひみつ道具はより未来的に、キャラクターは生身を感じさせるような暖かみのあるリアルな質感となった。

とはいえ、サブサーフェイス・スキャタリングは負荷のかかる処理でもある。レンダリング環境はメモリを32GB以上に統一していたが、複雑なシーンでは、1枚の絵をレンダリング(計算)するのに、6時間かかることもあったのだそう(映画は95分あり、12万枚以上の画像が必要)。

それ以外の一般的なシーンでも、1枚あたり1時間かかるのは当たり前。リアルなキャラクターやひみつ道具が完成した裏には、質感にこだわり抜いたスタッフの職人魂があったのだ。