3DCGだから生まれた嘘のつけない映像

「ドラえもん」の鼻やひみつ道具には、未来の新素材をイメージした、ツルツルピカピかの素材が多く使われている。そこから生まれた苦労を、白組のCGスーパーバイザーである鈴木健之氏が教えてくれた。

白組 CGスーパーバイザーの鈴木健之氏

「真正面にのび太がいれば、ちゃんと「ドラえもん」の鼻にも映り込んでいるように見せました。さっきまでいたのに、反対側にいないとだめだということで直しが入ったりと。そういう意味で、画面に存在しているものはちゃんと世界にあるように表現しています」(鈴木氏)

映画には「刷りこみたまご」という、大きくてしかも全体がツルツルの質感を持ったひみつ道具も登場する。画面にまったく映っていなくても、「ドラえもん」が窓を開けて、タケコプターで表に出て行くという動作を、見ている人は「刷りこみたまご」への映り込みを通して分かるという。

「キャラクターをレンダリングする際にも、背景データを用意して、陰影や映り込みが影響した状態で計算を行わないと嘘の映像になってしまう」と鈴木氏は語る。

一般的なシーンを描くのに用意したポリゴンデータは、背景データとキャラクターデータを合わせて4,000万ポリゴン前後。従来は背景とキャラクターで複数に分けていたレンダリングも、マシンパワーが向上したおかげで少ない回数で行えたという。

一般的なシーンを描くのに用意したポリゴンデータは、背景データとキャラクターデータを合わせて4,000万ポリゴン前後。ちなみにキャラクターをレンダリングする際にも、こうした背景データからの陰影や映り込みの影響が計算されている。「ドラえもん」で29万ポリゴン前後、のび太で86万ポリゴン前後という

空き地のシーンは、空き地部分だけで約1400万ポリゴン、周辺にある塀や民家を合わせて約3500万ポリゴンで構成されている。使用している3DCGソフトはオートデスクの「3ds Max」

本物らしさを追求するにあたって、ほかにもさまざまな技法が使われた。のび太の部屋を始め、いくつかのシーンではミニチュアを用意して、CGと合成するという手法が採られている。

間接光をリアルにシミュレートして再現する「グローバルイルミネーション」や、現実の光源に近く自然な影を生成できるエリアライトを多用し、計算によってフォトリアルなシーンを作りあげた。その効果には制作している本人たちも驚いたほど。シーンによっては、別撮りで撮影したミニチュアとCGの区別をつけられなかったという。

「以前は計算負荷が高くて、選択肢として選べなかったことも、今回はソフトとハードがすごく進化して、現実的に計算できるとテストの段階で分かりました。時代的にも恵まれてできました」と鈴木氏。

「僕がのび太で、スタッフはみんなドラえもん。こんな絵を出してというと、ほんとうに出してくれる状態でした」と写真と見まごう映像の出来映えに八木監督も楽しんだ様子を語る。