子どものころに親しんだ『ドラえもん』が、3DCGアニメーションでこの夏公開される! これを聞いて、興奮を覚えない人はいないはず。「ドラえもん」といえば、79年よりテレビ朝日系で放送されている長寿番組。毎年、劇場アニメも公開されているが、3DCGアニメとして作られるのは今回が初めてのことだ。
映像を制作したのは、国内屈指の映像制作会社「白組」。『ドラえもん』の3DCGアニメ化にあたっては、徹底的な「リアルの追求」があり、その制作現場にはデルのワークステーション「Precision T7600」シリーズがあった。今回は白組のオフィスを訪れ、どのように映像が制作されたのかを聞いた。
白組の3DCG制作オフィスにて。左から順に白組の花房真アートディレクター、白組の鈴木健之CGスーパーバイザー、「STAND BY ME ドラえもん」八木竜一監督 (c)2014「STAND BY ME ドラえもん」製作委員会 |
1年半以上かけてキャラクターやひみつ道具を3D化
『STAND BY ME ドラえもん』は、プロデューサーの発案からスタートしたプロジェクト。
監督・脚本を努める山崎貴氏がロングプロットを書いて、企画書を提出したところ、「こんなに愛のあるプロットはない。断る理由がない」と藤子・F・不二雄プロからも絶賛されてスタートしたプロジェクトだ。この愛のあるシナリオを、約40名のスタッフとともに映像化したのが、山崎氏とタッグを組んで監督を務めた八木竜一氏である。
制作期間は、企画から4年、実作業で3年半。そのうち制作の準備段階で1年半もかけている。この準備をしっかり行うのが白組の制作スタイルだ。映像を制作する行程について、八木氏が教えてくれた。
「最初にシナリオ開発を始めます。これは山崎が一人でやります。その裏でキャラクター開発、つまり登場人物を用意し、彼らの使う小物や背景などを用意するアセット作りを行います。アセット作りでは、キャラクターの表情や体を動かす仕組みまで、試行錯誤しながら完成させます。例えば腕がどのくらい伸びるのかとか(笑)。また絵コンテを用意して、それをもとにレイアウトと呼ばれるラフな映像を全編通しで作ります。これらを1年半以上かけて作業します」
この準備期間で試行錯誤をしっかり行わないと、実際のアニメーションの制作に入れないという。アセット作りは、いわば作品の基礎となる部分で、一度完成させたら(スケジュール的に)やり直せない分こだわりも強い。
中でも今回は特に、キャラクターやひみつ道具のデザインや質感をしっかり作り込んだ。映画は2K(横の解像度がおよそ2000ピクセル)しかないのに、キャラクター1体には4K(横の解像度がおよそ4000ピクセル)のテクスチャ画像を60枚前後も貼っているという。
この点について、デザインを担当したアートディレクターの花房真氏は「ハリウッドに勝たなければいけない。映画館に来て同じ料金を払ったのに、日本のものはクオリティ低いと思われるのは嫌だから」と語る。
ひみつ道具のデザインについては、原作をただ3D化するのではなく、ディテールにこだわることで、本物らしさを目指した。
「CGは"汚し"をいれると使用感が出てリアルになりますが、ひみつ道具は未来のきらきらした世界からきた道具。だから、汚しを入れるのはちょっと違う。デザインを単に原作通りの形にするのではなくて、未来の家電屋さんが未来の道具を本当に作ったらどうなるか、『未来の家電』をキーワードに考えました」(花房氏)
実を言えば、ネコ型ロボットである「ドラえもん」自身も初めは、この「未来の家電」というコンセプトで考えられていたという。
「ドラえもん自身が未来の家電で、ちゃんと存在するように作りたいと思いました。最初は、細い線やパーツの継ぎ目を入れたり、耳が取れた跡を付けたり。口の中にスピーカーなども入れようと試行錯誤しましたが、そうするとスタッフやいろいろな人から、それはドラえもんじゃないでしょうと(笑)。そこでもっと友だち感とか、温かみのある感じにするため、ドラえもんは家電感を少し落として、別の方法で質感をつけました」と花房氏は語る。
映像に目を凝らせば、「ドラえもん」にはのび太の指紋がたくさんついているとも教えてくれた。