――万城目さんが原作を務める映画『偉大なる、しゅららぼん』が公開されました。小島さんはこの作品についてどのような印象を受けましたか?

小島秀夫(以下、小島):テーマが凄いよね。琵琶湖に住んでいた人たちの長年に渡る戦いを描いてて、超能力も出てくる学園モノですよ?普通ではないじゃないですか(笑)。この発想は凄いと思いましたね。しかも、これを面白そうだなと思っても小説として成立させるのはなかなか難しいと思いますよ。ライトノベルなどのコアな人向けのものだったら可能ですけど、こんなにも多くの人に読んでもらえるような作品に仕上げるのは相当難しいですね。女性が読むことのできる作品になっていることが凄いんですよ。

万城目学(以下、万城目):1980年代のサイキック学園モノに含まれている要素をあえて全部入れているんですけど、そう見せないようにしたんですよ。そして、この作品に関しては、冷蔵庫にあるありあわせのものでどこまでちゃんと作れるかを試したような作品なんです。

小島:そういう夢のない話はダメですよ(笑)。

万城目:今までの作品は、"高級食材を使って何が作れるか"というものが多かったので、ある程度特別な料理が作れるんですけどね。

小島:この作品の舞台が"滋賀県"なのがいい。3行程度のプロットの段階から、その作品がどの場所の話なのかは重要なんですよ。そういった意味で、今回の舞台が滋賀県であることは難しかったと思うんです。でも、万城目ワールドになるとそのローカル感がなくなってしまう。入り口にはあったはずのローカル感が扉を開けてみるとなくなっているんですよ。万城目さんの頭のなかのような。で、結構ふざけながらストーリーが進んでいったのに、最後、感動するような展開がまっていて。それが腹立つんですよ(笑)。このような作品に仕上げるために、琵琶湖周辺を凄く丹念に取材されたんだと思うんですけどね。

万城目:現地での取材は欠かせないですね。小島さんの場合でも、『メタルギア』シリーズを作るとき、実際にサバイバル訓練などを体験しないで作品を作れというのは難しいですよね?

小島:そういった訓練もひと通り受けていますしね。肌に触れる感覚があると安心して作品が創れますから。現実世界で体験したからこそ、つけるウソもありますよね。特殊部隊の人たちと本当に訓練し、それを踏まえて、ゲームというファンタジーではこう変えて創っていこうとか。"ホンモノ"を体験したからこそつけるウソもあるわけで。

万城目:10割のウソをつくとウソ臭いけど、1割のウソと9割の本当だと、ウソが分からなくなるって、よくいいますよね。上手なウソのつき方は1割くらいウソを混ぜる。そういったウソをつくためには、本当のことを知らないといけませんから。

小島:それに、作品を創る際に色々な体験をするのは、僕が知りたがりだからなんですよ、好奇心が強いんです。僕は一時期、ゲームを創るときに行きたいところを舞台にしていたくらいですから。最近手掛けたゲームは、会社が取材に行くのを止めるようなところばかりが舞台になっているんですけどね(笑)。世界地図上で、渡航禁止のマークのついている場所ばっかりなんですよ。特殊部隊の方に、「このルートなら(目的地まで)行けるんですけど」って言ったら、「(危険すぎる!)あほかー!」って言われまして(笑)。

万城目:「メタルギアソリッド V ファントムペイン」の舞台のひとつである、アフガニスタンへは行かなかったんですか?

小島:アフガニスタンには行けなかったですね。その近隣国へは行きました。最近、そういった取材に僕は行かせてもらえないので、会社の若い子に行ってもらうんですけど、注意を怠ると野犬に追われて死にかけたり、結構危険な目にも遭いかねないんですよ。