ざっくり形勢を判断すると、こんな感じだ。薄い黒の部分が黒地だと思われる場所。そして薄い白が白地だと思われる場所である。どう見ても黒地の方が多い。このままの状態を守っていれば、黒の勝ちは堅い。Zenはそう判断したのだ。
もちろん、人間でもこうした形勢判断を行って、無理をしないという選択肢をとることはある。しかし、Zenの判断はさらに緻密でシビアだ。人間なら「後から追いつかれるかもしれないから、もうちょっとがんばって稼いでおこうかな」とがんばるような場面でも、「たとえ0.5ポイント差だろうと、勝てばそれでいい」と判断するのだ。だから、決して無理をしないし、安全さえ確保できるなら甘い戦法も平気でとるようになる。「不安」を一切感じないコンピュータならではの戦略といえる。
こうなってくると、不利なのは人間側だ。本来なら白地に侵入してきた黒を攻撃する側だったはずの小沢氏だが、今度は一転、自分自身が黒地に侵入しなければ勝てない局面となってしまった。しかし、見ての通り、残された戦場は少ない。手薄な場所があるとすれば右上しかないが……。
ここでZenはぬかりなくがっちりと右上をガード。これでは右上に白が侵入するのも難しい。この一手で、小沢氏の最後の望みは絶たれたかに思われた。
しかし、終盤に入って、小沢氏が最後の粘りを見せる。
終盤で粘りを見せた小沢氏、しかしZenが押し切る。
終盤になると、囲碁は「ヨセ」と呼ばれるフェイズに入る。お互いの国境はほぼ完成し、あとは国境の小競り合いで少しでも敵陣を減らしていくというものだ。どの部分をどの手順で攻めるのがもっとも得かという緻密な計算力が要求され、こうなるとZenは強い。
さあ、ここで小沢氏が最後の攻撃を開始した。右辺の白から右上の黒地に対して攻撃をしかける。大きな戦果が望める手ではないが、防御の仕方を間違えると黒も大きな損をしてしまう場面だ。
黒白ともに一歩も譲らない攻防を繰り広げ、この場面は「コウ」へと突入した。「コウ」とは、黒と白が連続して無限に石を取り合える形のとき、一旦別のところに打ってからでなければ取り返せないという特別ルールだ。
この説明だと初心者には何がなんだかわからないと思うが、ここでコウを詳しく解説すると長くなるので割愛する。サッカーでいうところのオフサイドみたいなもので、理解していなくてもこの後を読む分には特に問題はない。とにかく知っておくべきは、最後の最後に「コウ」というちょっとややこしい形が出現したということだ。
そして、Zenはコウが苦手なのである。
小沢氏が粘りを見せたコウ対決の結果は、このような形になった。下辺を見ると、白石が黒地の壁を突き破って侵入していることがわかるだろう。その代わり、右辺に多少の犠牲が出たが、これはやむを得ない。
あとは、この右辺に残された白の一団が生き残れば、形勢は大きく動くことになる。勝てないまでも、Zenに一矢報いることができる。果たしてこの白の一団が生きる手はあるのだろうか。……続きを読む